Renovation Interview 2009.3.20
太郎吉蔵からの問い──都市は誰のものか?
論考]新堀学
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「主体/市民」をつくるデザイン|新堀学
このリノベーション・インタビューシリーズのなかで問い続けているひとつの軸は「リノベーションの主体」であり、もうひとつは「保存の構造」、そして最後に「職能への視座」である。
松村秀一の言う「利用の構想力」こそが、いまここにあるものをストックに転化し価値を生み出す原動力であるとするならば、文化財保存でないケースでは、その構想力が行使される現場をいかにデザインできるのか、建物の価値をいかに具体化できるのかこそが、行為自体の価値や意味につながると考えてこれまでの取材をすすめてきた。
この滝川のケースでインタビューした二人の五十嵐氏は、それぞれ出来事への立ち位置が異なっている。その違う立場や役割が連携することで、プロジェクトが進んでいることからも開放系参加型の計画論の可能性が見出せるだろう。しかし一方でどの場所でも問題になることであるが、「参加」にまつわる主体のアップリフトの問題もすでに表われている。
ここでそれらの答えが出ているわけではないが、特に五十嵐威暢氏の、リスクと負担を参加する人たちのそれぞれが許容できる範囲で負担していくという、タフな戦術思考には学ぶべきところが多いと感じた。そして同時に、いくつかの「物語」という共同性によって参加者を結びつけるというソフトな戦略をとることによって、目的が手段を支配する非対称な息苦しさに陥るのでなく、むしろそれがふとした折に反転しうる可能性を担保している。このあわせ技が今後成果に結びつくと非常に興味深い事例になるだろう。
そして「建築家」として召喚された五十嵐淳氏のある種のとまどいも、おそらくはそういった複数主体のなかにあるプロジェクトのデザイン、およびそのなかでの職能のデザインという新しい課題に気づくが故のものではないか。リスクと決断を引き受ける「クライアント」が存在しないなかで、プロフェッションの場はどのように確立できるのか。それは、私自身も模索しているテーマにほかならない。
プロジェクト自体の成否によらず、ここで提示されている課題の射程はより広く思考されるにふさわしいと感じるインタビューであった。»

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