Renovation Interview 2008.9.30
美術と建築を横断し、社会を知る──金沢におけるCAAKの試み
論考]倉方俊輔
Page 9/9 «123456789|»

「新築/保存からリノベーションへ」のまち版|倉方俊輔
あるものを活かすことがリノベーションなら、その対象を単体の建物だけではなく、まちに拡張しても良い。そうした思考実験は、まちを考える際の風通しを少しは良好にするはずだ。CAAKの活動に触れて、そんなことを思った。
多少強引だが、主語を「建物」と「都市」とダブらせて、「まちのリノベーション」の要件を考えてみたい。
建物の新築は、おおむね与条件をもとに最適解を目指してなされる。これに対してまちでは、完全に新たなものをつくることは難しい。それでも多くの都市計画は、新築に類する思想の産物と言える。
これに対して、保存という考え方もある。過去に遡行し、復元し、中身とは別に外形を温存させる努力が多くの建物に対して払われてきた。都市についても、同様の取り組みがみられる。
もちろん新築も保存も否定すべきものではない。良い新築があり、悪い新築がある。良い保存がありえるし、悪い保存もあるのかもしれない。
しかし、ここにリノベーションという第三の方策も加えたい。そして、良いところを活かすリノベーションには、リサーチが必須である。これは松田達さんへのインタヴューで、デザインサーヴェイとの関係で触れたとおりだ。
CAAKの活動はハードの面では、例えば町家に、遡行的な歴史的価値でない新たな視座を与えるだろう。ソフトの点では、例えば金沢という適度なスケールのまちに、ここだから可能な人のつながりをもたらすことと思う。単なる地方中核都市、あるいは伝統工芸のまちといった形容に回収されない、「新築」でも「保存」でもない金沢らしさを育む。金沢とその外部とを行き来する林野紀子さん、吉村寿博さん、松田達さんの、それぞれ特徴を持った目線は、そんな「リノベーション」にうってつけだと感じた。
加えて、ここには鷲田めるろさんがいる。お話が面白かった。高次からの視線が獲得されていて、むろん場面に応じた目線が取れるコミュニケーション力に申し分はなく、幸せの総和を大きくするという言わずもがなの理想も伝わって、良いキュレーターとはこういうものかと感じ入った。アーティストや建築家といった実務者と異なるレヴェルで、共にまちに必要な存在である。CAAKの活動の大きな強みだろう。オープンエンドな動きが今後、どのように推移していくのか。さらに見続けたい。

HOME «123456789|»