プロローグセッション
▲本耕一氏
●都市再生と六本木ヒルズ
これは森美術館オープン前イベント、「世界都市展」で展示された東京の模型です。低層の建物が広がって、ほとんどが木造だから、火災が片側でおこれば火の手がばーっと広がってしまう街並みです[fig.1-01]。これは、ニューヨーク、マンハッタンの超高層ビル[fig.1-02]と銀座の模型の上にエンパイア・ステイトビルを載せたものです[fig.1-03]。スケール感がこんなに違う。ニューヨークでは高い建物が容積をふんだんに使っていることと、東京の街は非常にごちゃごちゃしていることが見て取れます。東京都心4区、新宿、千代田、中央、港区の総面積はだいたい60平方キロですが、マンハッタンも61平方キロです。昼間人口が、都心4区は313万人、マンハッタンは338万人でほぼ同じです。ところが、住んでいる人が都心4区は56万人、マンハッタンは148万人で、いかに都心4区に住まずに仕事をしに来ている人が多いか、ということがわかります。
fig.04の図は人口の推移です。周辺人口と東京都の人口です。(青いのが都市圏の人口ですが)周辺がどんどん増えていることがわかります。皆都心から遠くに住むから、通勤時間が片道平均1時間半で、行き帰りだけで疲れてしまうという状況です[fig.1-05]
fig.1-01
fig.1-02
fig.1-03
fig.1-04
fig.1-04
fig.1-05

●都市の移り変わり
ここからはアーバンニューディール政策の頃から言っていることです。都市の姿の移り変わりを示しています。低層1階建て、2階建ての戸建てが街に建っていますが[fig.1-06]、建築基準法の規制で、北側斜線で斜めに切られたり、マンションを建てたりということで、こういう街になってくる[fig.1-07]。本当にこのように様変わりをしてよいのかと思います。fig.8の下の模型は3ヘクタールに1階や2階建てを建てたもので、上の模型は同じ3ヘクタールの敷地に同じ面積を40階建てにすると、これだけ集約して建てられることを示したもので、密集して建っていた所に空き地ができます。それを何本か建て、低層の建物を屋上緑化していくことをスタディしましたが[fig.1-09]、屋上緑化によってヒートアイランド現象も防げます[fig.1-10]。それをある程度実践したのが《愛宕グリーンヒルズ》です[fig.1-11]。それから《六本木ヒルズ》についてですが[fig.1-12]、1953年頃、《六本木ヒルズ》のある場所はこういうところでした[fig.1-13]。その後、テレビ朝日や住宅ができ、消防車も入れないような路地がこのように変わるわけです[fig.1-14]。《六本木ヒルズ》ができるまで、1986年から2003年まで17年間かかっていますが、そのくらいの時間を費やさないと再開発はできませんでした。
fig.1-06
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●みなとの街を考える会
こんなことを1999年くらいから考えてきました。その後、有識者の先生方が集まって、「みなとの街を考える会」という研究会をやっていました。今日は、その研究会での資料を紹介しますが、森ビルの街づくりの考え方がわかると思います。
「みなとの街を考える会」は、現在ではNPO「新しい都心の街づくりを考える会」として法人化させて活動を開始しています。
平成14年に都市再生特別措置法が施行されて、森ビルがいろいろ計画をしている環状2号線新橋周辺、赤坂、六本木地域が緊急整備地域として指定されました。そして、いろいろな企業・団体が勝手に計画を出していくことが可能となるなかで、グランドデザインを描いておくことが必要であろうということになり、議論のたたき台を「みなとの街を考える会」としても考える、ということでした。どういう提案をしているかというと、「バーティカル・ガーデンシティ」(都心型庭園都市)という考え方を提案しています。安全で快適で賑わいや潤いがある、という街を目指した提案です。その地域ですけれども、環状2号線、外堀通り、環状3号線、六本木ヒルズです。それから青山通り。新橋があって、これらに囲まれた約590ヘクタールの土地が緊急整備地域です。そういう街のグランドデザインをつくるためには理念と目標が必要だと考えました。ここでは多様性をもった街であることが、みなとの街の一番の魅力だと分析しています。多様性のある街では人が触れ合ったり、いろいろな場面に遭遇でき、新しい想像力が生まれたり、創造性が大いにかき立てられます。その多様性を認めることは、逆に言うと、再開発をする所としない所を認める──持続可能性という言い方をしておりますけれども──、そういうことを保証することになります。多様性があれば、時代の変化に対応したり、土地の状況に合わせることができるわけです。だから多様性という言葉をひとつのキーワードにしています。それから、多時性を持った街であるということがもうひとつのキーワードです。この地域は外国企業や大使館が数多くあり、その時差による多時性という、そういう見方もあります。多時性というのは、六本木ヒルズの開発や新しい建物のように早く進める場合と、ゆっくり進めたほうがよい保存のような場合と、いろいろな時間軸が同時に並行していることも意味します。このことを理解してやらなくてはいけない。つまり、グランドデザインには多様性、多時性が基本的な考え方として大切だという理念でやっています。
グランドデザインの目標を考えるにあたって、まず通勤時間が1時間以上かかる、平面的に広がる都市構造の問題、それから、消防車も入れない貧弱な都市空間などの問題があります。そのような都市の抱える問題を、環境に優しく、地域の個性を持った街をつくるという方向にしていこうということです。「みなとの街」の課題と可能性に関して、都市基盤について言えば、街区構成が対応できなくなってきているという問題があります。さらに昼間人口と夜の人口の差の問題も含めて、人口がアンバランスになっているということもあります。それから、この地域は歴史のあるお寺や神社、緑地や史跡があり、起伏のある地域という特徴もあります。また、多くの外国人がおり、テレビ局などもあるという、国際化・情報化の街であることも特徴で、そういうところから新しい街の考え方が見出せると考えています。
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