プロローグセッション
●保存、再生、建替えの条件
求道学舎の再生がなぜできたかというと、第一に求道会という宗教法人の単独所有で意思決定ができたということがあります[fig.5-01]。次に建物自体の構造・配置がXY方向の耐震壁のバランスがよく、構造強度もあったということです。三つ目は、ある意味で最大のポイントなのですが、求道学舎を改修して住みたいという個人を集めて、受益者がお金を出すという仕組みがつくれたということがあります。江戸川の場合は残したいという人がいましたが、あくまで傍観者で、そこが一番違う点です。つまり改修工事の主体と、完成後の維持管理の主体を明確にできたのと同時に、お金を出す人が受益者であるという仕組みをつくることができました。それから、何とか住宅金融公庫がついたことです。民間の経済原理だけで判断されたら築79年では門前払いですから、近々、公庫がなくなるというのは結構大変なことです。これは今後の大きな課題です。あと、当初の建設の経緯、施主、設計者等に関する記録が詳細に残っており、当初の設計図もきちんと保存されていました。実際は大月先生の協力を得て、原寸を実測し直しています。一部設計図と違うところがあることも膨大な資料の中からわかったのですが、そういうものがそろっているということが再生できる大きな条件です。また、現所有者である近角さんに建物に対する愛着があったことと、さらに、何よりも建物自体に保存すべき空間的価値があったということが大きいと思います。→参照
fig.5-01

最後に、どういう状態であれば保存、再生、建替えができるかというと[fig.5-02]、事業主体が明確であるということと、その後の利用、管理運営主体が明確であることが非常に大事だと思います。基本的に、受益者が資金を出すという仕組みがないと、残そうとか建替えようといっても無理です。つまり事業の仕組みが構築できるかどうかです。また、権利関係が単純であること、あるいは合意形成が可能であることが大事で、区分所有建物は最悪だということになります。定期借地権も最後に建物を壊して更地にするというだけでなく、建物を無償で地主さんに戻すという仕組みを選択できるようにしておくといいと思います。そこで残す価値があれば、手を入れて残すし、残す価値がなければ壊して考える、あるいは手に負えなければ手放すということで、いずれにせよ再生が可能だと思います。区分所有建物の場合、残すには同意とお金がかかりますし、建替えでも5分の4以上の賛成が必要となると、容積率がアップするとかいろいろなことがないと建替えもできません。また、残す価値があるかどうかについて、そもそも意思決定できないという状況になってきます。保存、再生する場合は、やはり建物自体に保存、再生すべき価値があることが前提となりますが、そのためには先ほども言いましたとおり、創建当時の経緯、当初の竣工図や管理運営記録、大規模修繕の記録など、建物自体についての記録ができるだけ詳細に残っていることが大事なのではないかと思います。さらに保存、再生、建替えを行ないたいという人々の強い意思や愛着があることが決め手になってくるのではないかと思います。[了]

fig.5-02

PREVIOUS | NEXT

HOME