プロローグセッション
●実験結果に見る汚れの違いと清掃方法
fig.3-01は、ヘッダーを使ったときに、普通の配管とどのくらい汚れが違うのかを3年間にわたって実験した結果です。これは名古屋で行なった実験で、A室からD室まで、台所、浴室、洗面、洗濯とありますが、基本的に浴室、洗面、洗濯のパイプはほとんど汚れておりません。きれいなところは2〜3年経ってもほとんどきれいなままでしたが、問題は台所です。
戸別に比べてみると、相当汚れが付いている家もあれば、比較的きれいな家もある。そうしたことから、いわゆるヘッダー方式で勾配を緩くしたから付いた汚れなのかどうかが議論されるようになりました。しかしいろいろ聞いてみたところ、汚れの違いはむしろ台所の使い方による問題です。油をたくさん使われる家庭の場合はどうしても汚れる。また、なかには配管の洗浄剤を使ってときおり清掃する家庭もあります。そういうもので違ってくるので、部屋ごとに1/50で計画したり、1/100の緩い勾配でやったりといろいろな実験をしましたが、結果としては、勾配による差はほとんどないです。従来の配管システムと比べても、ほぼ同じような汚れ方をしていることから、排水ヘッダーを使った低勾配型だから詰まりやすいということはないとわかってきました。

fig.3-01

もうひとつ大変おもしろいことがわかったのですが、2年間くらいでたまったスライムは、素人でも流せるんです。どうするかというと、キッチンのシンクに水をたっぷりためて、栓を抜いて一気に流すんです。そうするとこの汚れはやわらかいですから、すっともっていかれてきれいになる。ということは、お金を出して清掃しなくても、もう少し自分たちで水を流すことを推奨すれば、配管は結構きれいになるとわかったわけです。一応、報告書にはそう書いてありますけれども、そんなことを言うと掃除屋さんが食いっぱぐれるとかいろいろな話があるので、まだあまり言っていません(笑)。もうひとつは、こういう汚れをきれいにするためには、ものすごく圧力をかけた清掃方法はあまり必要でないということです。50kg/cm2くらいの低圧で、水量の少ないものでもできる。ヘッダーはパイプシャフトのなかに出ているわけですから、その掃除口からすぐきれいになる。ということから、これからは自分たちで掃除をやれるような環境をつくる必要もあるのかなという議論もしました。

●都市機構の排水ヘッダー方式
都市機構に納められている排水ヘッダー方式について設計要領をつくってまとめたのですが、都市機構の場合は、専有部に立ち入らないで維持管理できる共用部に設置しています[fig.3-02]。これは民間のマンションの場合と多少違うところで、民間の場合は、専有部にヘッダーを置いている場合もあります。これは賃貸か分譲であるかによって違いが出てくるものと思われます。
排水ヘッダー方式が可能となったのは、特殊排水システムだからで、普通の排水継手ではあれだけの流量を1本の配管のなかにまとめることはできません。その特徴としては、1対1で接続でき、勾配は1/100まで緩和でき、掃除口があって専有部分の衛生器具の直近まで共用部から清掃できます。それから、最下階の排水横枝管も排水ヘッダー方式にしています。また、排水器具はどれがどこにつながっているのかとか、距離は何メートルか表示しようとか、排水ヘッダーの設置場所には雨水のドレンが必要だとか、その他少し余計な建築的な対応も必要になってきますが、都心部の都市機構の住宅では今ほとんどこの方式を使っていると思います。

fig.3-02

●強制排水方式
コンバージョンやリニューアルなど、いろいろな要求にも対応可能な配管システムがないかということで、排水管の横枝管ももうちょっと合理的にしたいと考え、継続して動力排水システム研究を行ないました。fig.3-03は、2つの大きな方式をひとつの絵で説明していますが、ひとつは衛生器具のところに動力加圧ポンプを置いて流すという加圧ポンプ排水方式で、便器の場合はここに粉砕機能を付けます。この場合のメリットは、当然配水管がものすごく細くなることです。例ば、雑排水系ですと50mmくらいの口径の排水管が20〜25mmくらいで流せる。便器についても同じく75mm口径のものが20〜25mmのもので流せる。となると、配管の収まりが自由になるのと、ポンプをもっていますから天井をまわして排水管に入れることができて、配管の設置が非常に自由になる。こういうものは十数年前からあって、INAXさんもこの実験をしています。われわれも少しお手伝いしたことがありますけれども、大変うまく流れます[fig.3-04]。問題は、ポンプが止まったときやソフトの問題が解決していないということで、実験だけで終わっているケースもあります。

fig.3-03

fig.3-04

最近出てきているのはサイホン式排水方式です[fig.3-05]。上階の水のところからちょっと山をつくり、下の階もしくはある程度下がったところに接続することによってサイホン現象を起こし、サイホンの吸引力で全部流してしまおうという考え方です。ご承知のように排水は半満流で、上のほうに空気層を残し、下に水を流して、空気と水が入れ替わることによって流れていくものですけれども、サイホン式は満流方式です。完全に水が充填されてグワッと水が水を引っ張っていきますから、非常に早い、力強い流れ方をします。最後にジュジュジュッと音がして、トラップが切れてしまうくらいです。ポンプを使う場合と、サイホンを使う場合、これらを合わせて強制排水方式と言います。

fig.3-05

都市機構の八王子の試験場を借りて実験したときは、トイレは加圧ポンプ方式、台所のシンクはサイホン式、洗濯機もサイホン式でやっています。ディスポーザーなども、サイホン式の場合はきれいに吸い込んで流れていきます。ということで、サイホン式は動力も使わないし、配管も細くなって非常に好ましいのですが、サイホン式で上がってきて最後に配管シャフトのなかを下の階に落として、下の階の継手につなぐ。現実にこういう排水方式がとれるかと言いますと、パイプシャフトの床に穴を開けなければいけないなどいろいろな問題が出てきます。立て管の継手も新しくつくることはできますが、既存のものを使うならどうやってつなぐかといった問題も出てくるので、今これは実験のレベルでやっているところです。
fig.3-06は松村秀一先生のところで研究したものの一部ですけれども、動力排水を実際にオフィスビルのコンバージョンに使うと、どういうことが起きるのかというものです。オフィスビルはだいたい、エレベーターがあって、トイレがあって、階段があるというコアをつくっています。実際にこういうオフィススペースはあるわけですが、これを住宅に替えようとすると、住宅のなかの排水を外にもっていかなくてはいけない。そうすると、基本的に新しくパイプシャフトをつくる方法と、住戸内でいったん天井裏に落としてから廊下の天井を通して既存の立て管につなぐ方法がある。そしてもうひとつ、立て管を外へ出してしまう方法がありますが、いずれにしても、この排水の処理はプランニングに大きな影響があります。

fig.3-06


東京大学の野城智也先生の研究室で、IKビルという日本橋にある事務所ビルの排水のモデルをつくる際に協力しました。階段をあがって玄関に入るとトイレがあります。実際はパイプシャフトがあって、立て管は全部ここに入っています。そこにキッチンまわりのユニットとバスユニットとトイレユニットをつくろうということになったときに、全部強制排水でやってみようということになりました。まずキッチンまわりに配管がいっぱいあります[fig.3-07]。給水と給湯と排水と通気がありますから、配管の種類は、電気、ガス、台所排水、台所通気、台所給水、台所給湯があって、これだけの本数になりますが、全部さや管方式でやっています[fig.3-08]。それからユニットバスについても同じようにやっています。さらにトイレもありますので、3つの配管方式を考えてみることにしました。キッチンは在来配管方式、いわゆるスラブに支持固定した方式をとっています[fig.3-09]。浴室・洗面系統はスラブに固定しないで、いわゆる置き床に固定するという方式、トイレは天井を通してやってみようという形で、3種類の配管方法で施工をしてみたわけです。なぜそうやるかというと、コンバージョンなどの場合は騒音の問題が出てきますので、それを避けるため、床に吊ろうかという考え方をしたわけです。fig.3-10は、置き床に吊り金物でカチっとはめてやる床板吊り固定の配管システムです。はめてあるところの床板をはがそうと思うとちょっとしんどいですから、この面ははずれるけれど次の面ははずれないと、吊ってある場所を表示して対応させていく方法を考えています。

fig.3-07

fig.3-08

fig.3-09

fig.3-10


便所の排水ポンプユニットについては、フランス製のユニットを使っています。これは入ってきたものがクラッシャーの回転式汚物粉砕カッターで切られると、排水管をずーっと上がって出ていく。吐出管の管径は20から25mmくらいで排水できます。この方式は、自然勾配で入ってきた排水があるレベルになるとモーターが動いてポンプが起動し、排水するという一般的なものです。これも通気をどうするかというのが、ひとつ大きな問題です。当然、最初に流れたときにタンクのなかにあった空気が多少外に漏れないと水が入ってこられません。漏れた空気はどこにいくのかというと、1回通気管に出なくてはいけない。そしてモーターが回転してポンプが動き出すと、急になかが負圧になってきますから、外から空気を吸っているわけです。ちょっと吹いてちょっと吸うのは大変やりにくい。そのため、ちょっと吹いたときに、そのためだけに太い通気管を這いまわすのは是か非かという問題を随分議論しました。それなら脱臭すればよいという議論もありまして、ここでは通気管の接続口は20Aですが、脱臭装置でいったんプシュッと出るくらよいいのではないかという考え方でやっています。
fig.3-11は洗濯防水パンと少し特異な洗面台です。最近パワーアップした排水ポンプユニットが出ましたので今は1台でもできますけれども、ここでは2台置いています。この左側にバスユニットがあり、1台のポンプ能力ではバスユニットの排水能力を満たせないので、2台の並行運転をやっています。ここで一番問題になったのは、このユニットまでは自然勾配の排水ですから、床下にほとんどタッパがないことです。最近のバスユニットはバスタブの栓をはずすとパンに1回放水されてから流れていきますが、そのパンに流れてきたものに追随できないとあふれてしまうという現象が起こり、これはぎりぎりのところで運転しています。フランスでは浴槽のタブから直接引いていますので、うまくいっているのかもしれません。日本の場合は浴槽のパンと洗濯の防水パン、この2つはいろいろと工夫しなくてはいけないところだと思います。

fig.3-11

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