レクチャーセッション

●「ストックリノベーター」
中谷ノボル――アートアンドクラフトの中谷です。今日のレクチャーは「ストック×リノベーション」というタイトルをつけました、最近、リノベーションという言葉は一般化してきていて、新聞とかテレビでもすごく出てきます。ただ、私はリノベーション対して「ストック」という点について――すでに建っている建物としての「ストック」を、すごく意識しています。それで、リノベーションに対しては、あえて「ストック」という言葉をセットにしています。ですから、タイトルの「ストック×リノベーション」の、間に「×」を書いている意味は、単にそのストックをリノベーションするだけではなく、もとの建物よりもいいものになるという意味でこの記号を入れているわけです。
私の会社「アートアンドクラフト」は大阪でやっているものですから「ストック×リノベーション」の事例も当然大阪が多い。大阪は東京とはちょっと市場も違いますので、今日はその辺まで含めてお話したいと思っています。
僕は去年から自分のことを建築家と言うたりもしていますが、それまでは職業を聞かれたときに自分で建築家とは一切答えてなかったんです。自分自身ではすごく建築家だと思ってました。しかし、そもそも私みたいな仕事をしているものを建築家と呼んでいいものかというのが建築家の業界にはありました。だから建築家の定義はいろいろあるのでしょうが、自分でそれを言うのはすごく恥ずかしい。でも最近は、「中谷さんも建築家や」というふうにいろいろな所で宣伝していただいているので、もうそろそろいいかなと思って建築家という肩書きも名乗るようにしています。さらに今日は肩書きに「ストックリノベーター」と書いています。、つまりストックをリノベートする人、僕はそういう肩書きも広めていきたいなと思ってます。
●「住宅の均質化」に抗して
僕の実家は材木屋だったので、子供の頃から材木に触ったり、大工さんとしゃべったり、配達についていって建築現場に行ったりしてたんですね。だから、今の職業は自然にそうなったたんだと思っています。大学を出たあとサラリーマンとして、最初はディヴェロッパーで土地や戸建てを流通させる仕事をしてました。現場監督もやりました。建物だけでなく住宅に関わることを全部見ていきたいというふうに思って会社をつくったわけです。だから、よく人から今の仕事をについて「なんでもやりますね」と言われるんですけれども、自分のなかではすごく自然なんです。
アートアンドクラフトの会社案内には、表紙を開いたところに白い文字で「均質化されていない住まい、新しい都市居住のスタイル」と書いてあります。これが僕の会社のいわゆるキャッチフレーズみたいなもので、僕の「ストック×リノベーション」についての考え方はこの一文に集約されています。おそらく今日話すことも、ここに集約されているのではないかなと思っているのです。
まず前提として、現在の日本の住宅はどんどん均質化されてきたというのが私の認識です。戦後40年〜50年の間、大量の新築住宅が世の中に供給されてきたわけですが、住宅の「大きさ/規模」や「様式」のみならずその供給される仕組みやシステムに関しても、それらはスタンダードとして存在していました。
それに対して僕は、新しい都市の居住スタイル――スタイルというのは決してデザインだけではなく、供給の仕組みや手法も含みますが――を提案したいわけです。それはユーザーにとってみれば選択肢が増えるということですが、それを広げるような運動もしたいし、実際ビジネスでやりたかったのでこのキャッチフレーズにはすごくこだわりを持っているのです。

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