プロローグセッション


▲中谷ノボル氏

●産業としてのリノベーション

fig.01
では、レクチャーの本題に入ってゆきたいと思います。まず、「リフォーム」と一般的によく言われますよね?それと一番下の「リノベーション」というのと何が違うのかという話です[fig.01]
僕がリノベーションをやり始めたのが7、8年前です。そのときは、リノベーションとリフォームとは違うということを言いたかったので意識的にリフォームという言葉は使いませんでした。リフォームのイメージは、壊れたからそれを改善するとか、元に戻すとかですよね。ある不動産会社のリフォーム商品に「新築そっくりさん」というのがあるんですけれども、その商品の前提には「新築が絶対的にいい」という考え方があります。僕はそれとちがって新築が絶対的にいいとはまったく思っていなくて――それもありだろうけど――そうではないところの価値観にもっていこうと考えています。そういう意味を込めてリノベーションという言葉を使っています。
そのリノベーションのなかで、用途が転用する場合がコンバージョンですね。これはコンバートというところから来ている言葉ですが、最近は一般化してきて、ビルオーナーと話していてもコンバージョンは普通に通じるようになりました。まず、いままでリノベーションの行為のことばかり語られているんですけれども、ではその前提である住宅のストックが実際どんな状況かを簡単にみてみます。
このグラフの概要は、住宅はもう余っているよという話ですね[fig.02]。当然、戦後のある時期には住宅が不足し、例えば橋の下に住んでいる人とか、バスに住んでいる人とかいう状態もあった。

fig.02

しかし、1950年代に日本住宅公団ができてどんどん団地(=集合住宅)をつくり、またハウスメーカーもできて、その結果現在では、日本の全住宅の1割以上は実はもう余っているわけです。にもかかわらず、今でも一部ではマンションブームとか言われて新しい住居がつくられ、さらに空室がどんどん増えているというのが現状です。
これは住宅の寿命を世界の国別に比較した図なんですが、fig.03を見ると日本はだいたい25年くらいで建て替えているのがわかります。一方、消費大国のアメリカでさえ40年ぐらいで建て替えているのですが、それがヨーロッパになると70〜80年とさらに長くなるわけです。

fig.03

そして、日本の住宅ローンは多くの人が35年ローンで組みますが、そのローンが完済されない25年で建て替えるというのは、すごく無駄で、日本では住宅を本当に消耗しているなと思います。
これは住宅の流通数です[fig.04]。日本では文化的に他人の家をもう一度使うというのがなかったのかもしれませんし、構法的なものも違うかもしれないんですけれども、それにしても海外とは全然流通量が違うんです。たとえば、いま私どもがよく扱うものでいうと、築20年くらいの一戸建ての物件でさえ建物の価値はゼロで、建て替えを前提とした土地の値段だけで取り引きされています。

fig.04

昨日もあるビルオーナーから、売ろうかどうしようかと相談があったんですが、その場合の売買価格は土地代から解体費を引いたくらいの値段でしか取り引きされないんですね。でも見る人が見たら、このストックはまだまだ使えるんです。ヨーロッパでは、築100年の家が新築よりも高いとか、金持ちのヒラリー・クリントンが築100年以上の家を買ったとか、そんなことも起こっています。でも、日本ではこんな状況になっていて、これはちょっと異常なんです。
fig.05は住宅建設産業に占めるリノベーションのパーセンテージですね。一番右のが日本で、黒塗りのところがいわゆる改修系の工事なんですけど、全体のなかで1割くらいしかない。つまり、日本では住宅産業といった場合にはほとんど新築をさすわけです。一番左がアメリカですけども、4割くらいがリノベーションで、ヨーロッパのほうへいくと本当に6割、7割、8割がリノベーションになっていて、逆に新築の仕事のほうが少ない。だから、新築なんかやったことないよという人でも、建築家やと言うているのがヨーロッパかなと思います。

fig.05

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