Renovation Archives[099]
●ギャラリー+プロジェクトスペース
[倉庫]
Command N《KANDADA》
取材担当=福田啓作
概要/SUMMARY

左:改修前
右:改修後
1964年に建設され、もともとは株式会社精興社の倉庫として使用されていた、建物の1階部分をギャラリー兼プロジェクトスペースとしてコンバーションした事例である。
KANDADAは、「神田×DADA」「神田の街にダダイズム的始点をインストールする」ことをメインコンセプトとして、アーティストであり東京芸術大学助教授の中村政人氏を中心としたCommand Nが事業主体となり、彼らの創作の場として、彼らの基地として、また彼らの仲間たちの発表の場所として使用されている。
一方で、千代田区によるアートスクエア構想に主要メンバーとして参加する中村氏は、「大手町と神保町に挟まれたエリア全体で行なわれるアクション全体」をその活動範囲として認識し、KANDADAは建物単位のコンバーションだけではなく、かつては多くの印刷工場などが軒を並べて栄えたものの、現在は使用されなくなった建物や空間が多数存在する神田の地域再生の拠点として使用されることも意図されている。
設計概要

所在地=東京都千代田区神田錦町
用途=ギャラリー+プロジェクトスペース
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上6階地下1階のうち1階部分
延床面積=2,941平米
建築年月日=1964年6月(改築1973年10月)、改修=2005年〜現在
設計=(改修前)(株)志村建築設計事務所/(改修後)Command N
施工プロセス/PROCESS
BankART桜荘 アーティストとして活動する嵯峨篤氏による壁面等のリノベーションは行なわれたものの、ギャラリー兼プロジェクトスペースという用途上、設備面でも大幅なリノベーションは行われていない。もともと倉庫として使用されていた天井高4メートル、床面積約100平方メートルという空間はその特性を活かしながら、プロジェクトや展示内容に応じて空間の雰囲気は一変する。したがって、倉庫の持っていたスケルトンとしての特徴はそのまま活かされ、プロジェクト毎にアーティストと作品、そこで行なわれるイヴェントや訪れる観客によって「インフィル」が仮設的に挿入され、現在まで使用され続けている。
BankART桜荘 BankART桜荘
BankART桜荘 上:改修施工前の写真
中・下:改修施工中の様子
提供=コマンドN
現状/PRESENT
Landmark Project ll
KANDADA外観
無音花畑
KANDADA/project collective_commandN展の様子
提供=コマンドN
■KANDADAでの中村氏の活動は、セキスイハイムM1を使った東京・谷中でのインスタレーション、氷見にある旅館・永芳閣の再生プロジェクトなどの延長線上にある。時代の変遷とともにストック化し、運営/運用が難しくなった建物や場所、そしてその所有者や運営主体と関係を切り結び、アーティストとして、あるいはファシリテーターやアジテーターとして、そこに参加すること。この視点からKANDADAでの活動を眺めた場合、アジトとしての活動拠点を提供した株式会社精興社とはCSR(企業の社会的責任)という点での協力関係を、アートという形で具体的に発信していくことが共通のモチベーションとなっている。精興社単独では不可能であったギャラリーという公共性の強い場所にリノベーションすることで、会社の直接の事業領域とは直接関係のない企画やイヴェントがムーブメントとなり、そこを訪れる観客との交流が生まれるだけではなく、ISOの認可など、ポジティヴな相乗効果をもたらしている。
一方で、地域再生という観点から眺めた場合、かつて工場として使用されていた建物やオフィスが建ち並び、古書街である神保町から一歩入った場所でありながら、それまでとは異なる人の流れと動線を生み出し、再生の戦略を想像し、発信するための基地として機能している。
新築市場からストック市場への緩やかな移行、地方都市の財政破綻や郊外住宅地のスラム化など、需要と供給、建設と使用にまつわる関係が変化するなか、再生と活性化にまつわるビジネスはいまだ黎明期にある。KANDADAという場所とここでの活動は、個人としてのアーティスト、あるいはアーティストがイニシアティヴを握るNPOを主体とした、黎明期にある市場の実験的開拓を試みる先駆的な好例と言えるだろう。
(福田啓作)
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