Renovation Archives [097]
●横浜のエリアリノベーション(第2期)
《ZAIM本館》《ZAIM別館》《本町ビル45》《東京藝術大学大学院映像研究科》《万国橋SOKO》
取材担当=渡辺ゆうか
概要/SUMMARY
設計概要

ZAIM本館(以前は旧関東財務局)
所在地=中区日本大通り34
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階地上4階
建築面積=382平米
延床面積=1,953平米
竣工年=1928年
設計=渡辺節

ZAIM別館(以前は旧労働基準局)
所在地=中区日本大通り34
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階地上4階
建築面積=656平米
延床面積=3,294平米
竣工年=1928年
設計=渡辺節

本町ビル45(以前は旧帝国火災支店)
所在地=中区本町5-49
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階地上5階
竣工年=1934年
設計=渡辺節

東京藝術大学大学院映像研究科(以前は旧富士銀行)
所在地=中区本町4-44
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階地上3階
地上1階=323平米
3階=141平米
竣工年=1929年
設計=旧安田銀行営繕課

万国橋SOKO(以前は保税上屋倉庫)
所在地=中区海岸通4-24
規模=地上3階
延床面積=約3000平米
竣工年=1968年

横浜上空写真
©google map


横浜市クリエイティブ・シティマップ
拡大
1=ZAIM
2=旧富士銀行映像文化施設(東京芸術大学大学院)
3=BankART 1929 Yokohama
4=BankART Studio NYK
5=万国橋SOKO
6=赤レンガ倉庫
7=新港客船ターミナル映像文化施設(東京芸術大学大学院)
8=横浜美術館
9=横浜みなとみらいホール
10=BankART桜荘
11=横浜アートプラットフォーム 急な坂スタジオ
デザイン=NDCグラフィックス
人口360万人を超え、日本第2位の都市として創造産業を主軸とした文化芸術創造都市を目指す横浜市。本サイトでもいくつか事例を掲載しているが、今回は横浜の都市計画における数々の新規リノベーション事例を包括的な視点で捉えてみた。 市の都市計画は「クリエイティブシティ・マップ」が示すように6つの地区に分けられており、3つの重点取組地区、創造界隈モデル地区においては既存建造物の活用が率先して行なわれている。 山下・中華街・元町地区では、倉庫を会場とした「横浜トリエンナーレ2005」の開催。日本大通り地区においては、旧関東財務局、旧労働基準局を使用した「ZAIM」の設立。馬車道地区では、BankART1929事業や「北仲BRICK&北仲WHITE」の暫定的使用期間終了後、プロジェクトを引き継ぐかたちで始動した「本町ビル45(シゴカイ)」が始動。また、映像系産業促進のため2005年に旧富士銀行を使用して東京藝術大学大学院映像研究科が開設さていたが、さらに2006年には旧新港客船ターミナルを改修し同校の新港校舎も設立された。同年、万国橋近くの倉庫を使いクリエイターの新たな拠点「創造空間 万国橋SOKO」も完成した。桜木町・野毛エリアでも、違法飲食店が立ち並ぶ界隈に店舗を改修しアーティストのレジデンス機能を備えた「BankART桜荘」が設けられた。同地区には、舞台芸術の育成として旧老松会館を使用し「急な坂スタジオ」も開館している。 2007年、歩み続ける横浜の進展状況を見てみたい。

★──創造産業/クリエイティブ・インダストリー。英国の文化・メディア・スポーツ省(DCMS =Department for Culture, Media and Sport)によると、創造産業は、「個人の創造性や技能、才能に由来し、また知的財産権の開発を通して富と雇用を創出しうる産業」と定義されている。音楽、舞台芸術、映像、ファッション、デザイン、クラフト、美術市場、建築、テレビ、ラジオ、出版、広告、ゲームソフトを含むソフトフェアの各産業などがあげられる。
施工プロセス/PROCESS
本町ビル45 本町ビル45 本町ビル45(シゴカイ)(旧帝国火災ビル)
改修は、水回り、仕切り壁の設置、塗装など最低限の操作のみ。内装は入居者が自由に手を加えることができる。みかんぐみ、城戸崎和佐建築設計事務所、小泉アトリエなど建築、都市計画など11組の団体が入居している。4階には、既存の金庫室をギャラリーとした部屋も作られ、イベント時には来場も可能。
左:本町ビル(シゴカイ)平面図
資料提供=BankART1929
右:左手前が本町ビル。右奥にBankART1929 Yokohamaが見える
筆者撮影
BankART桜荘 BankART桜荘外観
筆者撮影
BankART桜荘(元飲食店)
大岡川沿いの違法な小規模飲食店が立ち並んでいたエリアに、文化芸術拠点を設け地域再生を試みる官民共同モデル事業。神奈川大学・曽我部昌史研究室が店舗改修を行なった。ギャラリーやレジデンス機能を設置し、滞在型の制作を可能にした。1階に設けられた座敷は行き交う人々との交流促進を計るとともに、見る見られるといった防犯機能も兼ねている。
ZAIM ZAIM ZAIM(旧関東財務局・旧労働基準局)
以前、地方裁判所建て替えの際に仮使用されていた状態をそのまま活用している。横浜トリエンナーレ2005では、「トリエンナーレ・ステーション」として市民サポーターや作家の交流の場として大きな役割を果たした。次回トリエンナーレの活動拠点として継続使用が決定し、市民サポーターや若手アーティストの育成に加え、スペース、シアター、ホールなどを一般に貸し出している。公募で選考された25組の入居団体のなかには「北仲BRICK」在住だったアーティスト、ジャーナリスト、NPOなどもアトリエを構えている。
ZAIM 上:ZAIM平面図
下:ZAIM外観
提供=財団法人 横浜市芸術文化振興財団
万国橋SOKO 旧富士銀行外観左:万国橋SOKO外観
右:旧富士銀行外観
筆者撮影
創造空間 万国橋SOKO(旧保税上屋倉庫)
2004年に倉庫としての役割が終了したのを機に、市は率先して映像、クリエイター育成の教育施設などの誘致を進めた。構想にともなうコーディネイト業務、助成金、企業ニーズなどがうまく適合した事例でもある。1階部分に開校した「バンタンキャリアスクールSOCO横浜校」は、倉庫特有の空間を活かしフレシキブルな移動家具で各エリアが区切られおり、活発な交流を計るために教室は高低差で空間分けがされている。天井高を活かし中央部分に設けられたキャットウォークからは室内の活動を見渡たすことができる。山本理顕設計工場、NDCグラフィックス、映像作家・伊藤有壱なども制作拠点としている。
バンタン バンタン バンタンキャリアスクールSOCO横浜校内装。壁には教育及び空間コンセプトが書かれている
筆者撮影
現状/PRESENT
Landmark Project ll
今年2月に行なわれた「Landmark Project ll」パンフレット。街や建築物を舞台に広がる活動を建築家、アーティストの作品を通じて各地を結びつけ、都市リーディングの体験を試みた展覧会
提供=BankART1929
無音花畑
BankART Studio NYK3階。美術作家・丸山純子による「無音花畑」
提供=BankART1929
ZAIM
2007年ZAIMで行なわれた「SHOWCASE」オープニング風景。全国50組の芸術組織が集いアート・イニシアティヴ・フェアが行なわれた
提供=Art Autonomy Network(AAN)
芸術不動産
Landmark Project llのプロジェクトとして会期中のみ開店した不動産。アーティスト、クリエイター、オーナー、創造活動の拠点などコーディネイト業務を行い不動産価値の向上を目指すもの。官民共同で本格的な始動を予定している
提供=BankART1929
■改修規模は法的な問題や予算の関係で最小限に留めたところ、大規模に改修を行なったところ、入居者に改装の自由を持たせたところなどさまざまだが、第2期の大きな動向としてハード面よりも新拠点設立にともなうクリエイター人口の増加などソフト面の環境整備の充実が挙げられる。北仲BRICK&北仲WHITEの暫定使用期間(18カ月)が終了したのちも、居住者の多くは都心に戻らず横浜に残り活動を続けている。市民レベルでの創造都市へ向けた意識促進も、ZAIM設立などから積極的な姿勢を読み取ることができる。クリエイティブな視点で地域安全・防犯にアプローチしている新規モデル事業の意義も大きい。横浜トリエンナーレ2008や2009年の開港150周年を見据えて大規模な開発が進められているが、横浜市内に残る70件以上の歴史的建造物、横浜港に関連した既存建築物のポテンシャルはまだまだ高い。各エリアによって進行状況は多少異なるものの、計画、実験、実施を経て本格的に運営していく時期に入り始めたはないだろうか。今後も先駆的な都市計画、及び都市運営を進めながら根付き始めた創造性を存分に開花してもらいたい。
(渡辺ゆうか)
Archives INDEX
HOME