Renovation Archives [096]
●ギャラリー
[窯工場]
下山政明
(下山建築・デザイン研究所)《窯のある広場・資料館》
取材担当=神崎直人
概要/SUMMARY

1986年改修当時の外観
提供=INAXライブミュージアム
現在の外観
筆者撮影

現在の窯の様子

窯の火屏風に取り付けられた照明

窯上部と屋根架構

1階展示スペース

2階展示スペース
筆者撮影
「窯のある広場・資料館」が位置する常滑は、日本六古窯のひとつとして数えられ、古くから大型の壺や陶管など常滑独特の焼き物を産出し発展を遂げてきた窯場である。昭和30年代まではレンガ造による煙突や窯が多く残っていたが、時代の変遷と共に稀少な存在となりつつある。この現状をうけ、株式会社INAX(以下、INAX)は環境整備事業の一環として、窯の保存と再利用を目的に工場敷地内および周囲の環境整備を図り、同時にテラコッタなど貴重な資料の収集保存及び展示企画やギャラリーの一般開放など市への文化的な還元を目的に1986年に「窯のある広場・資料館」を開館した。後の1997年には国の登録有形文化財に指定された。現在周辺には世界のタイル博物館、土・どろんこ館、陶楽工房といったINAXの文化活動の場や市民活動の場が整備されており、これらを総称し「INAXライブミュージアム」と呼ばれている。
「窯のある広場・資料館」には、陶管やテラコッタ、タイルなどを焼き続けてきた古い角窯が残され、かつて焼き物の町として栄えた常滑を想起させる。新たな機能を担うことになった古い窯と共に、「窯のある広場・資料館」が文化創造の場として新たに歩むことになった。
設計概要
所在地=所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130
用途=ギャラリー、ゲストハウス(窯内部)
構造=ギャラリー部分/木造瓦葺、ゲストハウス部分/レンガ造
規模=地上2階
敷地面積=2628.96平米
建築面積=759.64平米
(展示場:255.06平米、資料館:378.8平米、収蔵庫:125.78平米)
延床面積=1032.92平米
(展示場:246.45平米、資料館:729.77平米、収蔵庫:56.70平米)
竣工年=1986年5月(既存建物:1921年)
設計=下山建築・デザイン研究所
施工=谷川組
築年数=86年
家主=株式会社INAX
設計者=下山政明(下山建築・デザイン研究所)
企画立案者=株式会社INAX
事業企画=株式会社INAX
施工プロセス/PROCESS
■基本方針
常滑市内に残る窯のなかでも特に大型の窯であり、産業遺産として後世に受け継ぐ必要があるとの認識から改修に至った。改修は外観については1921年新築当初の佇まいを保存・再生する方針で行なわれた。一方で建物内部の窯や構造体については、積極的に見せるという方針で改修が行なわれた。

■改修内容
・窯や煙突などの主要部分についての改修は、最小限に留め、炉壁のコーティングや隙間充填が行なわれた。
・窯の内部は、コンサートなどのイベントができるように床暖房、エアコン、照明のほか、必要に応じて利用できる椅子も整備された。
・建物内部の床については、以前は土間であったが、一般の来館者に配慮し、煉瓦敷きの床に改装された。
・窯の周囲のスペースについては、タイルやテラコッタの展示スペースに転用された。1階部分は窯の周囲を、2階部分は、以前は陶管などを乾燥させる場所であった屋根裏空間を展示スペースとしている。それにともない、2階の天井を撤去し、屋根の架構が見えるようになっている。
・1986年の改修時には耐震補強は行なわれなかったものの、2004年に東海大地震に備え、建屋の耐震補強が行なわれた。また同時に展示レイアウトの変更も行なわれた。
上:窯のある広場・資料館周辺配置図
中左:同、耐震工事後1階平面図
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中右:同、耐震工事後2階平面図
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下:同、改修後断面図
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現状/PRESENT

窯のある広場・資料館正面外観

窯のある広場・資料館と世界のタイル博物館

窯のある広場・資料館北西側広場

INAXの外装壁タイルを焼成していた伊賀上野から部分移築されたトンネル窯

窯のある広場・資料館北側広場と陶楽工房
特記以外すべて筆者撮影
■窯工場はものづくりとしての役割を終え、文化創造の場としての役割を担い再生された。窯や煙突の保存のなかで、窯の詳細部や構造体を見せるなど素材や空間のハード面だけでなく、時間という概念をうまく取り扱った事例といえる。時間が生み出す煉瓦や木といった素材の風合いはやきものの歴史・文化をより身近に感じさせる。現在、「窯のある広場・資料館」では伊奈製陶(INAXの前身)創業時からのタイルやテラコッタなどの産業遺産を公開する一方で、市民団体によるイベント活動も行なわれている。

「窯のある広場・資料館」の開館はINAXの社会貢献活動の皮切りであり、現在周辺には世界のタイル博物館、土・どろんこ館、陶楽工房が整備され、INAXライブミュージアムが組織されている。各々の場が、ものづくりの工程を展示物として、やきものの歴史・文化の醸成に貢献している。なお、INAXライブミュージアムは常滑市観光協会が定めるやきもの散歩道の経路になっており、観光資源としての役割も果たしている。今後ますますこのエリア一帯の発展が期待される。

このように「窯のある広場・資料館」の再生は、単なる社会貢献の枠に捉われない、地域文化の継承というさらなる広がりを持った事例といえる。地域文化の継承と企業と地域文化の関わりに示唆を与えるリノベーションの好事例であるといえよう。
(神崎直人)
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