Renovation Archives [091]
●会館(集会場、宿泊室、図書室、研究個室)
[会館]
《国際文化会館》
取材担当=新堀 学
概要/SUMMARY
設計概要
所在地=東京都港区
用途=会館
構造=鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造
規模=地下2階 地上4階
敷地面積=10,937平米
建築面積=1,965平米
延床面積=5,702平米
竣工年=2006年(既存:旧館:1955年、新館:1975年)
改修工事期間=2005年5月-2006年3月
保存要望=建築学会
改修計画検討=国際文化会館建築諮問委員会、および阪田ワーキンググループ
設計=三菱地所設計
施工=
・建築=清水建設
・空調=清水建設、大気社
・衛生=清水建設、西原衛生工業所
外観
筆者撮影
1950年代に建てられた近代建築を現代のレトロフィット技術によって再生保存するモデル事例である。
2003年の日本建築学会から出された保存要望書に対して、オーナーが庭園を残す提案を求めることからこの再生プロジェクトは始まった。その後、事業性を勘案したうえで、再生保存の可能性に向けてプロジェクトチームが立ち上がり、既存の建築の空間、意匠、また庭園との関係などの文脈を保存しつつ、これからの施設利用に必要な性能更新を実現したプロジェクトである。
必要な事業費用についても、敷地の一部売却および空中権の売却というかたちによる事業性の検討が行なわれた結果、建築本体と庭園という空間資産を活かした再生となっている。
改修前配置図
左:1階平面図、既存
右:同、改修後
左:3階平面図、既存
右:同、改修後
施工プロセス/PROCESS
学会からの保存要望書に端を発する再生計画のスタートという経緯から、各プロセスにおいて係わる関係者それぞれの意識においてオーセンティシティが意識されつづけ、問いかけられ続けた。
既存建築は旧岩崎邸の基礎の上に建てられた1955年の本館竣工につづく数度の改修および、1975年の新館増築など、増築を重ねつつ使われてきた建物であった。しかしながら設計年度からもわかるように、現法規の耐震性能、避難規定を満たしていなかった。
また、会館というプログラムは基本的にサービス施設であり、近年の類似施設と比較してその性能的、内容的な見劣りが目立つようになっていた。そしてこれからの会館使用を考えてのホール、宴会場の更新およびそこへのサービス系の整理、また宿泊室各室への水周り設置が求められた。
以上より主な改修の内容は
・耐震強度の向上
・インフラ引き込みの変更
・設備施設の新設
・ホール新設
・サービス系の再構築
・会議室、宴会場の拡幅
・宿泊室の更新(設備新設)
・外装の更新
・車椅子対応エレベータ設置
・耐震壁の設置
・空調設備の更新
などとなっている。
これらを、クローズタイムを最小にするという点から「既存建築改修案」が近代建築の傑作の保存という視点も含めて検討され、結果として既存建築のオーセンティシティを意識するかたちで工事をスタートさせることになった。
上:工事風景
下:耐震壁の設置。既存躯体に新設された
開口部の改修。木造の既存框に、アルミの断熱サッシュをはめ込む再生を行なっている
左:開口部改修の様子
右:木製サッシュ断面図
エントランスの改修。エントランス改修の検討(採用案は改修案B)
既存
改修案A
改修案B
写真エントランス
基本設計個室断面図(床180上げ)

特記以外写真・図面はすべて
提供=三菱地所設計
現状/PRESENT
■歴史的建造物の保存運動がかつてほど珍しいことではなくなった現在でも、うまくそれが実ることはなかなか目にできない。この《国際文化会館》のケースでは学会の保存要望書から始まったオーナーと建築界とのキャッチボールのなかで双方がある種の見識に到達することで、再生保存という果実が実ったといえるだろう。
基礎の部分に旧岩崎邸の基礎が存在していたため、そのまま免震案は実現はしなかったものの、学会側からの保存再生提案が一般に想像されるような教条的な「オーセンティシティ」中心主義ではなく実際にそれを実行運用するオーナーサイドの事業性までも含めた負担というものをきちんと考えたものであったことが、それ以降のコミュニケーションの継続を成立させていたのではないだろうか。建物を存続させるというスキームなしに「オーセンティシティ」を議論しても始まらないという一種のリアリズムは、むしろオーナーサイドにとって提案の信頼を高め、かえってこの事業の意義を形作る「オーセンティシティ」という提案の意味を考えさせることになったとみられるだろう。
また、提案を引き継いだプロジェクトチームおよび実施設計チームともに、このプロジェクトの意義の中心が「オーセンティシティ」という絶対評価のできない、見えない価値にあること(とその難しさ)をよく理解しまたそれに挑戦したことが、同様にこの建築的成果につながっているといえる。
法規や機能のためにいくつかの部分でオリジナルの状態をとどめることができなかった場所はある。が、総体としては使うということと保存ということがうまく一致した再生だといえるのではないか。
当初のオーナー側の動機である建物の性能のアップデートを十分に果たしていると同時に、それが既存の空間、意匠と違和感なく実現されているという評価がこの再生の価値をもっとも表わしているのではないだろうか。
イタリア、フランスなどの建築の保存が当たり前の世界とは異なり、日本では「オーセンティシティ」という概念自体が社会のなかではいまだ構築の途中であるといえるだろう。実際の空間においてその考え方の意味と重要性を図りつつ、共有できる概念をこれから作っていかねばならない。この《国際文化会館》のケースにおいては、その概念をめぐる関係者全員の模索、挑戦の総体とそれに対する今後の評価というダイナミックな運動がここに始まったということに価値があるといえるであろうし、またこの再生の実現がひとつの先例としてこれからの再生を考える尺度を与えてくれるものだと言うことができるだろう。
(新堀 学)
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