Renovation Archives [086]
八木佐千子(NASCA)
●住宅のリノベーション

《早宮の家(改修)》
取材担当=大家健史(フリックスタジオ)
概要/SUMMARY

上:外観(現況)
外部は既存のまま。植栽が道路からの目隠しの役割を果たす
右:廊下側からエントランス方向を見る。大胆にトップライトを設けることで、玄関や書庫に明るい光が差し込んでいる
■築45年の木造住宅を家族構成の変化に合わせてリノベーションした事例である。
建築家の林雅子、中原暢子とともに「設計同人」を共同主宰していた山田初江は、1959年にこの住宅を設計した。水回りを中心に集める「コアシステム」のプランを取り入れたモダン住宅であり、当時は「屋根うらのある家」という名前で各誌に紹介された。
もともと夫婦2人のための住宅だったが、娘が2人生まれ、家族構成が変わったため、1969年に設計者の山田自身の設計により増改築が行なわれた。その後、子供が成人して独立し、夫婦2人の生活に戻ったため、娘で建築家の八木佐千子が2003年に再び改修設計を行なうことになった。
設計概要
所在地=東京都練馬区
用途=専用住宅
構造=木造
規模=地上2階
敷地面積=225.76平米
建築面積=103.17平米
延床面積=139.47平米
改修年=2004年5月
施工=広・佐藤工務店
家具制作=チェリア
経師=鈴木源吾
屋根裏へ上がる階段
二階の開口から書庫に光が差し込むように、吹き抜けを設計している
屋根裏部屋
1969年の増改築時に設けられた。当時の雰囲気をほとんどそのまま残している
施工プロセス/PROCESS
1959年新築時の平面図 ■1969年に親子4人のライフスタイルに合わせ、増改築を行なった。北側の増築部分に玄関、廊下、和室、書庫、浴室、二階の屋根裏部屋を新設し、キッチンはL型に拡張し、動線などを変更した。
それから35年経ち、今度は老夫婦2人のライフスタイルに合わせて、あらたに改修を行なった。この家を離れたくないという夫婦2人の思いから、仮住まいをせずに住みながら工事をすることになった。そのため、生活に必要な機能を残しながら、四期にわけて部分ごとに改修している。
第一期工事(2003年8〜9月)は1959年の新築部分である南側のエリアを改修。もともと北側に水回りがあったため、洗面所を台所として使い、北側の和室を寝室とした。L型だったキッチン周りの動線は新築当時のプランに戻し、自由に動き回ることができるように直している。
第二期工事(2003年10〜11月)は1969年に増築した北側部分を改修。暗かった室内に光を取り入れるために、ところどころにトップライトを設けた。水回りを残しながら工事を進め、浴室やトイレなどの解体するときに、寝室にトイレを新設した。
第三期工事(2003年11〜12月)は浴室、トイレ、家具の新設工事を行なった。インテリアは徳島にあるオーダーメイドの家具屋「チェリア」に分離発注。ボックス型の家具を製作した。また、屏風やふすまなどを表装する職人である経師に依頼し、壁や天井を和紙で仕上げている。第四期工事(2004年1〜3月)では外構工事など、最後の仕上げを行なった。
竣工して45年が過ぎた木造住宅であったので、耐震補強をして、老朽化した設備をすべて入れ替え、傾いた根太を水平にするためにジャッキアップするなど、大がかりな工事が行なわれている。
1969年増改築後の平面図
左上:第一期工事
右上:第二期工事
左:第三〜四期工事
2004年改修後の平面図
図面提供=八木佐千子
左:既存キッチン
右:工事中の写真
台所と居間の間仕切壁はそのままにしている
写真提供=八木佐千子
左:キッチン
既存のイメージを踏襲しながらもデザインを一新している。吊戸棚は既存のまま残し、扉を新しくした
右:リビング
キッチンをぐるりとまわることができる動線に戻した
寝室に新設した介護用トイレ
閉じた状態(左)/開いた状態(右)
トイレ周りの設えをほかの家具と同じようにデザインしたため、閉じた状態の時は家具のように見える
現状/PRESENT
上左:書庫
蔵書が多かったので、和室との間の壁を取り払い、書庫を拡張させた
上右:廊下奥からエントランス方向を見る
洗面化粧台を新設した。他の家具と同じデザインに仕上げている
左:キッチン使用時の様子
以前はガスコンロを使っていたが、今回の改修では火災の心配の少ないラジエントヒーターを設置している
特記以外は筆者撮影
■使い慣れたイメージを踏襲する
一見するとあまり変わっていないように見える事例だが、実は巧妙に考えられたリノベーションである。
《早宮の家(改修)》では4人→2人と変化した家族構成と老夫婦の年齢を考慮して、部分的に「元に戻す」ための改修が行なわれている。 家族構成の変化に合わせて「増築する」という行為は当たり前のように行なわれているが、「減築する」あるいは「元に戻す」という行為は住宅のレベルではあまり一般的ではない。しかしながら、これからの高齢化社会を考えるとこのような視点の転換も十分に一般化しうる。
高齢者といえば短絡的に「バリアフリー」住宅を考えてしまうかもしれないが、改修後も高齢者が安心して今まで通りの生活ができるように、使い慣れた物やイメージなど、必要な部分を残しながら、それぞれの生活に合った使いやすい空間をデザインすることもこれからは求められてくるのではないだろうか。本事例は使い慣れた空間のイメージを踏襲した、高齢者にやさしいリノベーションの可能性を提示している。
(大家健史)
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