Renovation Archives [084]
●コーポラティヴ集合住宅
[学生寮]
近角建築設計事務所/集工舎建築都市デザイン研究所《求道学舎リノベーション》
取材担当=新堀 学
概要/SUMMARY
設計概要
所在地=東京都文京区
用途=コーポラティヴ・ハウジング(以前は学生寮)
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上3階
敷地面積=852平米
建築面積=336平米
延床面積=768平米
竣工年=2006年(既存:1926年)
企画=求道学舎リノベーション住宅プロジェクトコーディネートチーム(アークブレイン、近角建築設計事務所、集工舎建築都市デザイン研究所)
設計=近角建築設計事務所 集工舎建築都市デザイン研究所
施工=
・建築:戸田建設
・空調衛生:関工第一企業
・電気:テクノサイジング



上、中:改修後、外観
筆者撮影
下:配置図
提供=集工舎
■文京区本郷に建つ築80年の旧学生寮をリノベーションし再生した事例である。
この場所にはもともと、浄土真宗大谷派の僧侶近角常観が廃墟を利用して始めた学生寮 求道学舎が建っていて、その教会として求道会館が1915年に、またRC 造の求道学舎が1926年にともに武田五一設計によって建てられた。求道会館は東京都の有形文化財に指定され、2002年に修復工事を完了し、現在も使われている。
そして、この求道会館に引き続き、求道学舎が定期借地権を販売することでコーポラティヴ・ハウジングとして再生した。
歴史的建造物の再生にスケルトン・インフィルの考え方を用い、また再生をサポートする仕組みとして定期借地権+コーポラティヴ・ハウジングの考え方を利用したケースとしてここではとりあげる。
施工プロセス/PROCESS
スケルトン・インフィルの考え方による建築の再生
歴史的建造物のリノベーションにおいて、大きく二つ問題になるのは、やはり躯体自体の経時変化対策と、以降の使用のための設備の更新である。
特に施工的には前者については、ふたを開けてみないとわからないというリスクがつねに付きまとう。
本プロジェクトでは、「スケルトン補修」のフェーズと、「インフィルインストール」のフェーズとの大きな二つの施工フェーズを独立したかたちで設定し、それぞれの目標を定めるかたちでリノベーションを行なっている。これは定期借地権の分譲という仕組みを使うこととセットになる方針であり、融資関係、責任範囲、またスペックの意思決定などをクリアにすることができた。

「スケルトン補修」については、基本的に躯体の耐震性能を保証機構にて評定できるところまで改修することとした。内容は、ジャンカその他の欠点の補修、サンプル採取その他の調査に基づく性能の再計算から導かれたスケルトンとして使いやすい躯体の再設計、雑壁などの撤去、防水、サッシュ周りのこれからの62年(定期借地権が有効な期間)を目指したスペック確保などである。

「インフィルのインストール」については、コーポラティヴということもあり、旧躯体のスパン単位で、4スパンを基本としたバリエーションの設定、および各入居者とのセッションによるプランニング、自然素材を基本とした内装コーディネートなど、肌理細やかな住居デザインが心がけられている。
また、躯体の階高が十分に取れたこともあり、床下に230mmのふところを設定できた。これにより設備配管の引き回しに自由度がとれ、また、さや管ヘッダーの使用によりメンテナンス性も向上している。

また、特筆すべきこととして、敷地内に残された大樹をそのままにすることにも配慮した施工が行なわれ、その努力の結果、敷地内の豊かな緑環境も無事引き継がれることになった。
左上:改修前1階平面図兼配置図拡大
右上:改修後1階平面図
拡大
右下:同、矩計図
拡大
提供=集工舎
左:改修前共用玄関
右:改修前緑
左:改修前タイル
このタイルはオリジナルのままエントランスホールに残されている
右:改修前1階共用部からA住戸を見る
左:改修前2階E住戸階段
中:改修前3階J住戸
右:改修前3階屋上

施工プロセス写真すべて
提供=集工舎
現状/PRESENT

現況南面

外観
ともに筆者撮影
■62年の定期借地権分譲+コーポラティヴ・ハウジングというスキームに落ち着くまで、一部保存+分譲マンション案、賃貸住宅案などいろいろな事業検討が行なわれ、それらの苦労の末にここにたどり着いたという。それらの過程のなかで建築の保存を前提にしたとき、区分所有の持つ欠点が見えてきたと聞いた。
建物が保存されるということは単にハードが元のまま残るということではなく、それを使用する人、そして維持管理する人、プログラムが揃うということではじめて可能になる。区分所有においては、結果としてそれぞれの所有者の目的の違いが全体の保全と矛盾することが確率的にも想定される。ここではそのための定期借地権分譲なのだ。それにより62年後、スケルトンは再び元所有者へ戻され、その時、状況が許されれば再び同じ事業スキームを適用可能である。この仕組みによってこそ責任ある行為といえるかたちで次世代へ建築を引き継ぐことが可能になる。
また、もうひとつ、この再生にかかるコストの負担であるが、上記のような困難な施工プロセスからして、通常の新築以上のコストがかかることはすぐに理解できるだろう。それらを一般の市場原理のなかで調達するのは、事業的には困難である。これまではそれが歴史的建造物の再生の最も代表的なハードルであった。今回のケースにおいてはそこにコーポラティヴ・ハウジングというミッション中心のプログラムを設定し、そのミッションとして「この建物を残したいと考える人がそこに住む/使う」ということを打ち出した。非常に局所的な解ではあるが、しかし現実にそういったニーズが存在していることは、ちょうど計画時期に議論されていた同潤会のいくつかの出来事のなかで認知されていたという。あとはそこへどうやってこのプロジェクトの企画を届けるかということだった。もちろん、大々的な広告宣伝費はかけられないと同時に、それがふさわしい場所ではないということもあり、コーディネートチームの丁寧なフォローアップの努力によって、現在のメンバー(入居者)がそろったといえるだろう。
その結果として、今後、建築空間を活かして暮らすこうした理想的な関係をもった集住コミュニティの発生していくことが、今から期待される。

これらのソフト、ハード、そして仕組みがトータルかつ密接につながることによる歴史的建築の生きたかたちでの再生事例として、求道学舎リノベーションプロジェクトは歴史的建造物のリノベーションの新しいスタンダードのひとつを示すことになったといえるだろう。

★参考[第4回 リノベーション・フォーラム]
文化財のリノベーション――求道会館|近角真一
http://renovation.inax.co.jp/forum/004chikazumi/004lec03.html
(新堀 学)
Archives INDEX
HOME