Renovation Archives [077]
D&DEPARTMENT PROJECT(東京店)/建築デザイン研究所/ヒー ズワークショップ-アジア(大阪店)
●店舗
[会社営業所]
《D&DEPARTMENT PROJECT 東京店》/《同大阪店》
取材担当=福田啓作(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程(松村研究室))
概要/SUMMARY
設計概要
[東京店]
所在地=東京都世田谷区
用途=店舗
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上6階地下1階のうち1、2階
延床面積=1,534平米
建築年月日=1963年、改修=2000年〜現在
設計=(改修前)不明/(改修後)D&DEPARTMENT PROJECT

[大阪店]
所在地=大阪市西区
用途=店舗
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上5階建
敷地面積=230.05平米
建築面積=201.38平米
延床面積=855.93平米
建築年月日=1968年、改修=2002年
設計=(改修前)不明/(改修後)建築デザイン研究所/ヒー ズワークショップ-アジア

D&DEPARTMENT東京店の最寄り駅である九品仏にある看板
筆者撮影

D&DEPARTMENT東京店外観

同店、看板
以上2点、写真提供=D&DEPARTMENT
D&DEPARTMENT PROJECTによる建築物を対象としたリノベーションの事例である。
D&DEPARTMENT PROJECTとは、1997年に東京都文京区本郷で設立されたDrawing and Manualがその母体となって、1999年にウェブを中心に活動を始めた「デザイン性の高いリサイクル品の販売事業=D&MA」に起源を持つデザインプロジェクトである。同年、そうした商品を直接見たいというニーズに応えるかたちで、東京都三田に倉庫を借り、週末のみの開放というかたちで店頭販売を開始。その後、2000年にはD&DEPARTMENT PROJECT東京での活動を、2002年にはD&DEPARTMENT PRIJECT大阪での活動を開始。もともとデザイナーとして活動を行なっていた同社代表のナガオカケンメイ氏は、休日にリサイクル店を廻るうちにそこが「デザイナーがデザインした製品の墓場」であると感じ、「デザイナーが作るリサイクルショップ」という視点から、D&MAに繋がる活動を開始したという。

すべての活動の底流に流れるコンセプトは、「ロングライフデザイン」「新しくつくらないというデザイン」。D&DEPARTMENTが「企画問屋」という立場で、1960年代に製造されていた製品を販売する「60VISION(ロクマルヴィジョン)」、無印良品の中古を扱う「RECYCLE MUJI」、グッドデザイン賞を受賞した中古品を扱う「USED G」などのデザインプロジェクトを手がけながら、『d long life design』や『long life style』などの編集・出版活動や、世界的に活動するさまざまなアーティスト、建築家、デザイナーの「声」を収録したインタビューCDシリーズ「VISION'D VOICE」といった多角的かつ一貫した活動を行ないつつ、現在に至っている。
施工プロセス/PROCESS

左:D&DEPARTMENT大阪店改修前外観
右:同店、改修後外観
D&DEPARTMENT東京店が入居する建物は、もともとはテニスコートがあった場所に、地下を含む1・2階を路面に面したテナントとして、3階以上の部分はマンションとして使われることを想定して1963年に建設されたものである。その後、1・2階部分は富士通計算所や富士通営業所として使用された後、2000年からD&DEPARTMENT PROJECTが使用している。天井を剥ぎ、内装の塗装替えなどは行なわれているものの、躯体や設備関係等のハード面における大幅な改修はなされていない。
一方、D&DEPARTMENT大阪店が入る建物は、もともと刷毛会社の営業所として使用されていた建物を、2002年からD&DEPARTMENT PROJECTが使用している。こちらも、内装や一部設備関係を除き、ハード面における大幅な改修は行なわれていない。
左上:同店、2階部分改修前内観
右上:同店、2階部分改修後内観
左下:同店、カフェ部分改修前内観
右下:同店、カフェ部分改修後内観

以上、写真提供=D&DEPARTMENT
現状/PRESENT
上左:D&DEPARTMENT東京店1階ダイニングカフェ内観
上右:D&DEPARTMENT東京店2階内観
写真提供=D&DEPARTMENT

下:D&DEPARTMENT東京店1階と2階部分を繋ぐ階段。ナガオカ氏はこの階段を見て、この物件に決めたという。
筆者撮影
■施工プロセスでも述べたように、D&DEPARTMENT PROJECTが手掛け、使用する建物は、いずれも建物をハード面から一新するという意味でのリノベーションを行なっているわけではない。しかし、これを「ないからなんとかしたい」というモチベーションに基づいた建築プロジェクトとしてではなく、「あるけどなんとかしたい」というモチベーションに基づいたプロジェクトであると仮定して眺めた場合、代表のナガオカ氏から興味深い話を伺うことができた。
まず、ナガオカ氏の幼少時代の都市/街の原風景として、「アメリカに憧れた日本の生活、建物、街の姿」が記憶にあったという。氏は「原風景に入る」という言葉、そして「抜け」というキーワードでそのことを説明されたが、例えば体育館に入ったときに高い天井と遮られることのない視線から、私たちはそこに空間の「抜け」を感じることができる。同時に、建築/空間の可能性は、この「抜け」を含めて、そこに実際に入ることで、その建物の履歴を「体感」できるところにあるのではないか、ということであった。
こうした視点に立って、東京店、大阪店を眺めた場合、両店ともに「抜け」を感じる空間であり、かつ「原風景を体感する」ことが重視され、内装を含めて、新たに建材などを使用する通常のリノベーションは行なわれていない。また、大阪店の改修では、設計者の建築家・平沼孝啓氏(建築デザイン研究所 ヒーズワークショップアジア)とのサッシュの色を検討するやりとりで、その風景のなかにそのかたちで建っていたという点を重視した結局、色をシルバーのまま変えなかったと伺った。
D&DEPARTMENT PROJECTの「ロングライフデザイン」「新しくつくらないというデザイン」というコンセプトと同様、ここではすでに市場として、あるいは既存ストックとして存在しているものに対する共通した構えを見いだすことができる。つまり、「あるけどなんとかしたい」というモチベーションに基づき、「新しくつくる」のではなく「新しくつくらない」ことによって、「新たに使う」あるいは「使い続ける」という仕組みをデザインしようとする構えである。こうした考え方は、2003年度グッドデザイン賞新領域デザイン部門で審査委員長特別賞を受賞した際の選定理由にも共通して見い出せる。
D&DEPARTMENT PROJECT東京店、同大阪店は、あらたな「使い方」の仕組みを、「新しいカタチ」ではなくあえて「新しくつくらない」ことによって提示してみせたという意味で、一貫したコンセプトを持つデザインプロジェクトの好例と言えるだろう。
(福田啓作)
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