Renovation Archives [076]
阿部仁史+東北工業大学建築学科阿部仁史研究室
●ギャラリー
[階段室および展望室]
《T.I.T.GALLERY》
取材担当=齋藤和哉(ティーハウス建築設計事務所所員/東北工業大学建築学科客員研究員)
概要/SUMMARY

左:リノベーション前は展望室だった塔屋2階
右:リノベーション後、展示室となった塔屋2階
■東北工業大学香澄町キャンパスは、仙台市街地の南側に隣接する八木山と呼ばれる丘陵地帯にある。そのキャンパス内にある5号館(地下3階地上5階塔屋2階建て)の塔屋部分を、リノベーションしたのが《T.I.T.GALLERY》である。
東北工業大学建築学科設立30年を記念して1995年に開催された、「MIES VAN DER ROHE:WILL OF AN EPOCH ミース・ファン・デル・ローエ:ウィル・オブ・エポック」展(以下、ミース展)を機に、もとはあまり使われていなかった階段室および展望室を、職員および学生の作品や研究、その他の活動を発表できる常設ギャラリーへと改装するため、当時、東北工業大学建築学科講師だった建築家の阿部仁史氏(現、東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻教授)と東北工業大学建築学科阿部仁史研究室の学生により、設計された。
設計概要
所在地=宮城県仙台市太白区八木山
用途=ギャラリー(以前:階段室および展望室)
構造=RC造
規模=塔屋1・2階(既存建物全体:地下3階地上5階塔屋2階)
延床面積=218.07平米(塔屋1階 86.26平米、塔屋2階 131.81平米)
竣工年=1995年(既存建物:1963年)
設計=阿部仁史+東北工業大学建築学科阿部仁史研究室

5号館の外観。中央に見える、建物から飛び出しているのが塔屋部分

展示室からの眺望。天気が良いときには、太平洋が見える

1995年に行なわれたミース展のオープニング風景
施工プロセス/PROCESS
空間の構成は、塔屋1階部分をエントランス兼展示スペース、塔屋2階部分を展示室とし、既存の螺旋階段がその2つのスペースをつなげている。
地上5階のエレベーターホールからのぼる階段の側面には展示用の白い壁面があり、エントランスへとつづいている。赤く塗られた大きな片引戸から入るエントランスには、学生が制作したシンプルな青色の受付カウンターが置かれ、その横にはミースが設計したシカゴ・フェデラル・センターのカーテンウォールが、原寸大の模型で忠実に再現されている。その反対側のグレーに塗装された螺旋階段をのぼった先にある展示室には、展示用の白い壁面のみがある。
それら白い壁面の配置は、ミース展で展示しなければならないパネル枚数などから算出された壁面の必要な長さと、パネルを鑑賞するために必要な十分な引きを、この限られたスペース内で確保することを条件とし、検討・決定されている。そのため、展示室の中央にある高さ1,900mmの壁面は、既存の壁面に対して“斜め”に設置されている。
左上:塔屋1階平面図
右上:同、2階平面図
下:塔屋2階スタディ模型
模型上にある赤い梁とボックスは実現されていない

左:階段室から見たエントランス
右:シカゴ・フェデラル・センターのカーテンウォール模型
左:螺旋階段とカウンター
右:既存の壁面に対して斜めに置かれた、展示室中央の展示用壁面
現状/PRESENT
左上:2002年に行なわれたギャラリー・間巡回展「坂本一成展 住宅──日常の詩学」
右上:2005年に行なわれたトークイベント「だべらないと。」
右下:2002年に行なわれた結婚パーティー
■オープンから10年以上が経過した《T.I.T.GALLERY》は、モノを展示し、鑑賞する “ギャラリー”という枠にとどまらない場へと変容し続けている。
日常的には学生やサークルによる作品の発表会や展覧会などがメインの使われ方ではあるが、日本建築学会卒業設計展やギャラリー・間巡回展などの規模の大きな展覧会、ゲストを迎えたトークイベントやDJによるクラブイベント、さらには学生主催の結婚パーティーが行なわれるなど、その用途は多岐に渡っている。
その理由としては、市街地から適度な距離にあることや丘陵地帯ならではの眺望の良さといった、場所的・環境的な利点があげられる。それと同時に、当初想定されていた範囲を超えた使われ方をするということは、さまざまな活動を発見でき、かつ許容してくれる空間的な“のり白”が、この場に発生しているともいえるだろう。
(齋藤和哉)
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