Renovation Archives [074]
石原健也+千葉工業大学石原研究室
●低学年幼稚園児専用の園庭

《かしのき保育園園庭改修プロジェクト》
取材担当=欠端朋子
概要/SUMMARY

左:園庭改修前
提供=千葉工業大学石原研究室
右:園庭改修後
筆者撮影
■100平方メートル程の2歳園児専用の小さな保育園の園庭を、木質廃材を利用しながら学生の自主施工によって改修した事例である。
こどもの遊び環境に関わる研究を進めていた石原健也氏(千葉工業大学助教授)が、以前から交流のあったかしのき保育園園長の福島真氏から園庭改修の依頼を受けたことが、このプロジェクトの発端である。石原研究室が自主施工を行うという条件のもと、2004年春頃から学生らが石原氏と共にこどもの遊び調査、および園庭の設計・施工を進め、18カ月という歳月を経て完成に至った。
東京都多摩市のニュータウン内にあるこの保育園は、雑木林の風景と緩やかな起伏を持つ丘陵地に隣接している。改修前は砂場、すべり台、創作テーブル、パーゴラ等が配置されたごく一般的な園庭であったが、周辺環境や敷地レベルの高低差を活かし、地形と連続した立体的かつ伸びやかな構造の遊び場へと再生された。
また、園庭を包み込む手摺壁の素材として、石原研究室の活動経緯のなかから住宅の木質廃材が選定され、コスト削減および自主施工が可能なデザインの検討が進められた。
設計概要
所在地=東京都多摩市
用途=園庭(遊び場)
構造=鉄筋コンクリート造+木造
規模=地上3階
改修面積=約100平米
竣工年=2005(平成17)年
設計=石原健也+千葉工業大学石原研究室
施工=千葉工業大学石原研究室+市川住宅設備

アクソメ
提供=千葉工業大学石原研究室
施工プロセス/PROCESS
あそび調査
園児のあそびを観察し、こどもの欲求を満たす遊び場の構造を検討する
園庭の既成概念を見直すべく、第一段階として保育士へのヒアリング、園児のあそび調査、2歳児の身体計測のための型取り(こどもの身体スケールの把握)等のサーベイ・分析が行なわれた。これらの調査から得られた結果をもとにabove circuration/under circurationという二重のサーキュレーションを基本構造として設定し、これらの遊び場を囲む手摺壁のデザインスタディが重ねられた。
木質廃材は廃材リサイクル工場から無償提供され、学生らの手によって85mm角×600・800・1000mmの長さに切り出し・製材されたのち、連続的かつ不定型な形状に組み上げられていった。
保育士の協力のもと、模造紙の上に横になった園児の輪郭をなぞっていく
左:コンセプトダイヤグラム
右:資材調達
多摩市近郊で住宅廃材を扱う廃材処理業者へ、無償提供の交渉依頼
製材
釘抜き・切り出し・サンダーがけなどの製材作業は、すべて石原研究室の学生および有志によって行なわれた
自主施工
学生によるセルフビルドは2カ月間に渡った。手摺壁の他にも廃タイヤを利用したゴムチップの鋪装も施されている
以上、提供=千葉工業大学石原研究室
現状/PRESENT

園庭の様子
ともに筆者撮影
■竣工から7カ月を経て今もなお、園児達は楽しげにこの園庭を駆け回っている。廃材の柔らかな質感とさまざまな空間体験を持つ流動的な造形は、園児の「遊びの創作意欲」を促してくれる。こうした光景からは、この遊び場がこどもの身体的欲求を満たしていること、あるいは遊び体験を喚起させる場として息づいている結果を伺い知ることができる。
本件は、敷地内に遊具を点在させる「アイテム主義」という園庭のデザインコードを読み替え、ランドスケープと一体化した遊び場を形成することで、地形のポテンシャルやこどもの遊び行為を誘発した事例である。建物の長寿命化・機能的用途転換などのいわゆる「リノベーション」とは一線を引くプロジェクトであるが、「園庭」の在り方そのものをコンセプチュアルにリノベーションするとともに、その土地本来が持ちうる「場の可能性/潜在的特性」を顕在化・再生させた好例として注視すべきものである。
また、本事例は廃材という都市循環型の素材を、学生のセルフビルドによって取り扱っている点に特徴がある。こうした取り組みは「実践的デザイン教育」の一例として、リノベーションの選択性・可能性を広げてくれるものであると言えるだろう。
(欠端朋子)
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