Renovation Archives [072]
納谷建築設計事務所
●住居
[ビジネスホテル]
《木挽町御殿project 6F》
取材担当=大家健史
概要/SUMMARY
■ビジネスホテルとして使用されていた築約30年のビルの6階を、新しいオーナーの住居へとコンバージョンした事例である。
前オーナーは、東京・銀座にある8階建てのこのビルの数フロアをビジネスホテルとして運営していた。
今回は、このビル全体をフロアごとにコンバージョンしていく計画「木挽町御殿Project」の一環として、6階のワンフロアをコンバージョンしている。もともとビルの中央にエレベーターと直通階段が位置しており、フロアを大きく二分していた。来客が多く、サロン的なスペースをつくりたいというクライアントからの要望があったため、東側部分をリビング、ダイニング、キッチンを含むセミパブリックゾーンとし、西側部分を寝室、子供部屋、サニタリーなどを含むプライベートゾーンとして設計した。
設計概要
所在地=東京都中央区
用途=住居
構造=鉄骨ALC造
規模=地上8階
専有面積=133.95平米
改修年=2005年5月
施工=田工房
上左:外観(現況)
6階ワンフロアをコンバージョンした
上右:リビングのバーティカルブラインド
窓側に遮光性、室内側に透過性のある素材を用いている
下:ダイニングからリビング方向を見る
カーテンを開いた状態。左側の壁面には収納スペースを設けた
施工プロセス/PROCESS
ビジネスホテル時はワンフロア6室のプランだったが、これらの間仕切りをすべて解体した。東側のセミパブリックゾーンではLDKの空間を固定壁で仕切ることはせずに、カーテンやバーティカルブラインドで緩やかに囲むことによって、開放的でフレキシブルな空間を設計した。また、フロア全体の天井高を2,000mm弱に設定し、LDKのエリアをそれぞれ300mmの織上げ天井にすることで、空間の領域をつくりだしている。
もともとの配管に関する図面が残っておらず、解体後にはじめて上下階を貫通するユニットバス用の給排水管が6本存在することがわかったため、西側プライベートゾーンの水回りでは、その西側中央の一本を活用することになった。浴槽から6m以上離れていたために、このスペースの床レベルを210mm上げることによって勾配を確保している。東側中央の配管に関しては、どうしても空間上に表われてしまうため、鏡面仕上げのスチールのクロームメッキカバーをかぶせることで存在が目立たなくなるように工夫している。
上:既存6階平面図
下:改修後6階平面図
左:キッチンからリビング、ダイニング方向を見る
右:サニタリー。左側に主寝室、右側に子供部屋があり、両方からアクセスできる
左:ダイニングのすぐ横にあるビジネスホテル時のユニットバス用給排水管
右:バーティカルブラインドは手動でハンドルをまわして開閉する
現状/PRESENT
上左:リビングからダイニング方向を見る。バーティカルブラインドとカーテンを閉じた状態。ダイニング側にいる人のシルエットがうっすらと見える
上右:犬の視線でリビング側をみる。バーティカルブラインドは床上350mmにカットされている
左:カーテンなどを開いた状態。スペース全体を一室空間として使用できる
■戸建て住宅やアパート、マンションなど、日本中のありとあらゆる建物の部屋は、リビング、ダイニング、キッチンという用途別にプランニングするnLDKの考え方をもとに設計されている。それぞれの空間が十分な広さを確保できていればいいが、都心の狭い敷地の中でも同じような考え方で空間を細かく区切ってしまうため、それぞれの空間が狭苦しくなっていることが多い。そのような問題を改善するためには、画一化されたnLDKの空間を住まい手のライフスタイルに合わせてリノベーションすることが必要だ。
この事例はもともとnLDKの空間ではないが、ビジネスホテルの客室間の間仕切り壁を取り払い、LDKの境界面をカーテンなどで緩やかに仕切ることによって、ひとつの空間に対して限定したひとつの用途を与えるのではなく、さまざまな用途として使えるフレキシブルな空間をつくりだすことに成功している。カーテンやバーティカルブラインドは簡単な操作で自由に動かすことができるので、カーテンを開けることで一室空間として使用したり、バーティカルブラインドの角度を変えてスリット状の間仕切りにするなどして、住まい手自身の空間に対するクリエイティビティを喚起することにもつながっている。
(大家健史)
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