Renovation Archives [062]
遠藤於菟(北仲BRICK)、竹中工務店(北仲WHITE)
●オフィス+アトリエ+ギャラリー
[生糸検査所の倉庫事務所
《北仲BRICK&北仲WHITE》
取材担当=渡辺ゆうか
概要/SUMMARY

《北仲BRICK&北仲WHITE》外観
手前が北仲BRICK、その奥の白いシンプルな建物が北仲WHITE、さらに奥にランドマークタワーがそびえる
■2005年5月、神奈川県横浜市みなとみらい線馬車道駅、付近に位置する北仲通地区に、歴史的建築物を使用した暫定的創造空間《北仲BRICK&北仲WHITE》が出現した。現在、みかんぐみや小泉アトリエなど第一線で活躍する50組のクリエーターが1年6カ月のあいだ、活動の場として使用している。このプロジェクトは、横浜市が文化芸術活動を都心臨海部活性化の動力として位置づけながら、国際的な文化観光交流の場の形成を目指す「ナショナルアートパーク構想」を基盤背景としている。2005年3月、この建物の所有権を得た森ビル株式会社は、再開発事業の計画期間中のまちの活性化の場と見込んで「北仲BRICK&北仲WHITE」案を発案した。準備期間が2カ月という驚くべき早さで、この規模のプロジェクトが実施できたのは、行政の明快な指針、実績のあるNPO団体、有力な民間企業のバックアップという個々の役割が上手く活かされた実例である。この活動を通じて、各機関の横の広がりを持ったまちづくりの新たな関係性を見る事ができる。
設計概要
所在地=
神奈川県横浜市中区北仲5-57
用途=期間限定オフィス+アトリエとしての建築物暫定利用プロジェクト
構造=鉄筋コンクリート造[B、W]
規模=
・地上4階[B]
・地下1階地上4階[W]
延床面積=
・777平米[B]
・3,385平米[W]
竣工年=
・1926(大正15)年[B]
・1928(昭和3)年[W]
企画=森ビル株式会社
※B=北仲
BRICK、W=北仲WHITE
北仲BRICK入口
建設当時の面影を残す煉瓦タイル張りの柱形が特徴
北仲WHITE入口
北仲BRICKと比べるとシンプルな建物であるが、3階部分に見られるコーニスや4階の屋階的表現などは時代性が表われている。玄関ポーチにアール・デコ期の特徴を伺うことができる
施工プロセス/PROCESS
2004年までオフィスビルとして使用されていた為、一部の部屋に壁を増設するなどの処置がとられたが、インフラ等はそのまま使用できた。安全面で、北仲BRICK外壁部分の剥離落下防止としてネット掛け、使用するのに適さない為に地下が完全に封鎖された事を除いては、大規模な改修はされていない。以前まで男女共用となっていたトイレは、偶数階は女子専用、奇数階は男子専用として調整されている。基本的には、各部屋は入居者にそのまま賃貸され、内装の変更や運営方法は、安全上の支障が無い限り原則として入居者の判断に任せられている。
《北仲WHITE》平面図
上:地階、1階
中:2、3階
下:4階
図面提供=森ビル株式会社
《北仲BRICK》平面図
左:1、2階
右:3階、4階(屋上)
図面提供=森ビル株式会社
Room #401
左:みかんぐみ事務所が引っ越す前の状態。開放的なアーチ型の天井が印象的
右:オフィスを構えた状態
写真提供=みかんぐみ
Room #303
左:小泉アトリエ入居前。既存のパーテーションが残されていた
右:スタッフ自らパーテーションに青いペンキを塗った
写真提供=小泉アトリエ
現状/PRESENT

左:カラフルに塗られたポスト
右:Room #404
オープンギャラリーになっている部屋「ポロニウム」で、北仲WHITEにアトリエを構える若手作家・浅井裕介による作品《masking plant》

#406でのオープニングパーティー風景。北仲WHITEでは、週末になるとどこかの部屋でなにかイヴェントが行なわれている

Room #302
城戸崎和佐建築設計事務所。実験的空間だからこそ、普段使うことをためらってしまう赤という色にチャレンジしたという


青い小泉アトリエと赤い城戸崎氏の事務所のあいだにある中間領域には、城戸崎氏がデザインした「夜光・虫」が並べられ、憩いの場となっている(休憩中のみかんぐみスタッフ、嶋田洋平さん)

Room #308
On designの部屋は、
夜景を楽しむ為に真っ黒に塗られた壁面が印象的

Room #205
写真の高杉嵯知氏は、僧侶でもあり水墨画家。開け放たれたドアから、お邪魔すると素敵な笑顔で迎え入れてくれる

Room #114
人と本の関係性をテーマに活動するユニット「ブックピックオーケストラ」によるBook Room「encounter」。会員制・予約制・入場料制のあたらしい読書スタイルを提供するこの部屋は、普段の生活では起こりえない出会いを提供してくれる
■開発前の空白的空間が、これほどまでの創造的空間に変わったことは画期的出来事である。所有者側も固定資産税などを入居者の家賃でまかなえることができ、開発事業への第一歩としてのPRを担う部分も大きい。このような環境を生み出すには、所有者、利用者、地域とのバランスの良い関係性が重要となる。どこかが過剰に負荷を強いられる関係は、決して長続きしないし、発展を見込むことは難しい。関係性を持続するには、継続する為の経済性が必要だともいえる。
ここ北仲地区では、「ナショナルアートパーク構想」の一連の活動としてBankART 1929やBankART Studio NYKなど、表現の場として改修され、有効活用されている建造物がすでに存在している。この地区では、同時多発的に展示、イヴェント、ワークショップなどさまざまなプログラムが行なわれており、内外含めて多くの人々が北仲地区を訪れるようになってきている。そして、地域の人達も気軽に立ち寄れる場所、飲食ができる場所として活用している。このような場所が点在することにより、人の流れや交流が発生し、それらが活力となり、まちを形成し始めている。
横浜市が推進している文化芸術による創造的都市の実現には、こうした人や場の魅力的な関係性が不可欠である。
(渡辺ゆうか)
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