Renovation Archives [059]
GLAN FABRIQUE inc. DESIGN WORKS 河上友信
●空間デザイン事務所+ギャラリー+カフェ
[民家]
《GLAN FABRIQUE》
取材担当=伊藤良
概要/SUMMARY

右:改修前の建物外観
右:同、改修後の外観
外観に大幅な変更は加えていないが、モダンなイメージで構成されたエントランスが目をひく
■大阪府茨木市の駅前に建つ約1世紀前に建築され約20年もの期間、空き家となっていた民家を空間デザイン事務所とアートギャラリー及びカフェを包容する複合施設にリノベーション、コンバージョンしたのが《GRAN FABRIQUE》である。茨木市は元来、茨木城の城下町であり東海道の宿場町でもあったため、もともとは古い民家が多く存在していたが、近年、1970年開催の大阪万博の最寄り駅として開発されて以降マンションや新興住宅が立ち並び、現在では大阪や京都のベットタウンとして街の表情は様変わりしている。
この民家は、住宅地の細い路地の奥に取り壊されず空き家として残り続けていたところを空間デザイン事務所 GRAN FABRIOUE INC.主宰の河上氏の目に止まり、リノベーションされることになった。自身の空間デザイン事務所を開設する場所を探していた時、昔から気になる存在であったこの築100年の民家が持つ木の魅力に惹かれ、知人のデザイナーやアーティストと相談しあっている内、「この場所、この空間でならなにかおもしろいことを生み出せるはず」と、仲間達に後押しされるかたちで「GLAN FABRIQUE PROJECT-R」と銘打ったこの計画がスタートした。この場所をデザイン事務所としてだけの機能で完結させることなく、デザイナーやアーティストが交流できる場、そしてデザイナーやアーティストが地元の人々と接し、交流し、そこからまた新しい何かが生まれるサロン的空間になるよう、アートギャラリーとカフェの機能を持たせている。

右:改修前のカフェ部分内観
右:改修後。カフェよりギャラリーを望む。床は全面杉板貼りとした
設計概要
所在地=大阪府茨木市駅前1-8-28
用途=空間デザイン事務所(GLAN FABRIQUE inc.DESIGN WORKS)、アートギャラリー(la galerie)、カフェ(cafe百花)
構造=木造軸組構造
規模=地上2階
敷地面積=429平米
建築面積=115.5平米
延床面積=151.8平米
竣工年=2004年(既存:1910年[民家])
設計および設計管理=GLAN FABRIQUE inc. DESIGN WORKS 河上友信
施工=西嶋工務店
電気設備工事=黒木電工
屋根(瓦)工事=中尾住宅板金工作所
空調設備工事=株式会社 C.A.T
サイン、ロゴデザイン=本村信裕
左官工事、塗装工事、外構工事、美装工事等はオーナーとその仲間達による自主施工
施工プロセス/PROCESS
河上氏を「GLAN FABRIQUE PROJECT-R」プロジェクトディレクターとして中心に据え、彼の友人のクリエーター達の協力により、電気、給排水など設備関係以外の基本的な解体工事、左官工事、塗装工事等の作業をすべて自らの手で行なった。空間のデザインは既存の梁や柱など木で構成された内部空間の魅力を最大限に引き出すために、なにをどこまで残し、どこまで取り除くかといったバランスを重視しながら、モダンなエッセンスを付け加えていく作業を行なった。結果、古民家リノベーションにありがちな重々しさを排除したフラットで軽やかな空間が生まれた。
左:天井を抜いた状態
床座のスタイルから椅子座のスタイルへの変更のために取り払われた天井
右:改修前のエントランスと外構
左:改修前の2階部分内観 奥に床の間が見える
中:改修前の1階。カフェビップルーム部分内観
右:スケルトン化された天井の梁に取り付けられた照明器具や空調機器
現状/PRESENT

改修作業に参加した
デザイナーやアーティストの友人たち

ギャラリーにて開催された
地元大阪出身のミュージシャンによるイヴェントの様子

モダンなイメージでデザイン、構成されたエントランス

エントランスよりギャラリースペースを望む 残された建具にはゆらぎガラスが入っている

天井の抜かれたギャラリースペース

カフェビップルームより中庭越しにギャラリー棟を望む

カフェビップルーム
北欧デザインと日本のデザインが違和感なく同居している

2階空間デザイン事務所内観
天井はスケルトンとし、床は杉板貼り

テラスよりカフェを望む。奥にギャラリースペースが見える

カフェ内観
■本事例では、家族の住まう民家としての役目を終え、デザイナーやアーティストなどのクリエーターが出会い、集まることにより周辺地域を変化させうる新たな空間として再生を果たしている。そして、《GLAN FABRIQUE》を中心に茨木市だけでなく、京阪神を中心に活躍するアーティストやクリエーター同士の大きな輪が広がり始めている。彼らアーティストやクリエーター同士の輪の広がりは茨木市民を巻き込むかたちで茨木美術環などのアートを切り口にしたイヴェント開催にまで発展している。このことは、本事例をきっかけとしてそこで生活する地域住民がアートや関西の新たな文化を発見し、触れ楽しむ機会の場が広がっていると言える。
現在では一個人の民家のリノベーションをきっかけに、それに関わった人々の輪がいっそう広まり、それが街全体を巻き込むほどの動きに膨れあがっていっている。その結果として、個性のないベット・タウンであった茨木市という街に新たにアートや文化を持ち込み、街のイメージの刷新にまで至った。その中心的な場として 《GLAN FABRIQUE》は位置づけられる。
(伊藤良)
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