Renovation Archives [055]
遠野未来建築事務所
●住居、フリースペース、事務所
[ビルの管理人室、会議室]
《神田SU──ビルの中の土壁の家》
取材担当=吉岡誠生
写真=遠野未来
(E)、野口毅(N)
概要/SUMMARY

左:エントランス側からリビングを望む、改修前
右:同、改修後
(E)

左:改修前リビング
右:改修後リビング
(E)
設計概要
所在地=東京都千代田区神田美土代町
用途=住居、フリースペース、事務所(以前はビルの管理人室、会議室)
構造=鉄骨造(建物)、ラス網に土壁仕上げ(内装)
規模=地下1階、地上7階
敷地面積=117.46平米
建築面積=92.88平米
延床面積=703.70平米(改修部:80.23平米)
建築年月日=
リノベーション年月日=1996年6月〜1999年9月
設計・監理=遠野未来建築事務所
施工=
・遠野未来建築事務所ほかボランティア(建築)
・三井設備(空調・衛生)
・ハギワラ(空調)
・白河電設(電気)
■千代田区神田のオフィスビルの一部を住宅と事務所、イヴェントなどを行なうフリースペースとして改修した事例。
1994年、本事例の施主であり設計者である遠野未来氏は都心居住の試みとして、神田のオフィスビルの最上階に入居した。入居当初このスペースは、ビルの管理人室と会議室が2LDKの住宅へ改修されたものだった。1年間ほど暮らしたものの、都心居住のストレスや閉塞的で新建材に囲まれた内装などで家族が体調を崩したことがきっかけとなって、96年より、木の床、土の壁・天井へと自然素材の空間に改修をはじめた。
99年には、まちづくり活動への助成制度である「千代田まちづくりサポート」を受けることとなり、一般公募でボランティアを募り、ワークショップの形式でリビングに土壁と天井を増設した。このリビングはフリースペースとして一般に開放されることとなり、《神田SU(巣)》と名付けられた。こうして、住まい、建築設計の事務所でありながら、さまざまなイヴェントが開催されるスペースになった。
2004年には第10回リフォーム&リニューアル設計アイデアコンテストにて最優秀賞を受賞している。
ビル外観
施工プロセス/PROCESS
室内の中央を走る土壁は図面で表現しきれない曲線のイメージを形にするために、遠藤氏自ら鉄筋を組みつつ、写真を撮っては、それにペンで線を書き込みながら試行錯誤のうえ、つくっていった。この曲線がメリハリを効かせていて室内は広く感じられ、ビルの大きな柱や梁を包み込むように隠している。
その後、一般公募の人たちに参加してもらうが、彼らの手作り感が残る土壁は味わいを感じさせる。主な素材は、土、木、鉄筋である。土は場所によって、色と塗り厚、テクスチャーを使い分けている。土壁には通常、竹の下地が使われるが、ここでは鉄筋を使用し、化粧材として見えるように、節の目立つ異形鉄筋ではなく、スパイラル筋(直径9ミリ)を使用してシャープな表現としている。
1)1972〜93年
オフィスビルの
管理人室と会議室であった
2)1994〜95年
工務店によって
2LDKへリフォームされた
3)1996〜98年
遠野氏によるセルフビルドで
中央の土壁が設けられる
4)1999〜2004年
ワークショップ形式によって
完成した《神田SU》
平面図スケッチ
気の流れをイメージし空間全体を構成している
左:曲線を描く鉄筋
右:中央の土壁が完成した
左:土壁を塗る設計者の遠野氏。二つ目の土壁を施工中。壁は柱を隠し、そこに開けられた大小の窓から光を透す
右:天井の鉄筋を溶接中
左:天井に土を塗っているところ
右:
ワークショップ参加者が土壁を塗る
現状/PRESENT(2004年10月30日当時)

左:天井と壁で土の色、テクスチャーを変えている(N)
右:
完成した二つ目の土壁(N)


左:リビングスペースの棚
ブロックに穴を開け間接照明にしている
(E)
右:窓辺の植物がカーテンやブラインドの代わりに目隠しになっている(N)

リビングの収納(A)

事務所スペース

左:まちづくり神田寄席が開催された時の様子
右:リビング
(E)
■多様な側面を持った改修事例であるが、おおまかに3つの特徴に分けてみたい。
ひとつには、セルフビルドの改修であることが挙げられる。図面ですべて決めてしまうのではなく、つくりながら考えていったというのはセルフビルドならではのやり方で、つくる過程を大事にしている設計者の意図が表われている。セルフビルドの改修事例はアーカイブス内のNo.101635にも見られる。
二つめとして、改修がまちづくりに繋がった事例であること。ともにつくるという過程を経て、環境シンポジウムなどのイヴェントスペースとして使われるようになり、これまでに約2000人が訪れた。同様にまちづくりに繋がっている事例としてアーカイブス内のNo.3546を参照されたい。
三つめに、曲線を用いた構成と自然素材を用いた改修であることを挙げたい。この形と素材が生み出す手作り感が、ワークショップの形式にうまくマッチしている。このマッチングの成功で、遠野氏は日本各地、ロンドンやウェールズでもワークショップ形式で土を使った場づくりを行っている。
《神田SU》は2004年10月にビル側の事情でクローズすることになった。このこと自体は残念なことではあるが、それまでたびたびTVや雑誌、新聞などに取り上げられ、クロージング週間に行なったオープンハウスに200人もの来訪者があり、保存希望が絶えなかったことは特筆すべきである。ビルの一室であった場所が改修によって、大きなインパクトをまちに与えたことを物語っている。
最終的に、ここで使われていた大黒柱や梁、土壁の一部は、ほかのギャラリーや子供たちの交流の場などで再利用されている。遠野氏はなるべく近いうちに別の場所で新たな「SU」作りを始めようとしている。
(吉岡誠生)
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