Renovation Archives [054]
大成建設株式会社 設計本部
●展示施設+店舗+レストラン+広場[工場] ノリタケの森
取材担当=伊藤良

概要/SUMMARY

左:改修前の工場の全体拡大
提供=ノリタケカンパニー
右上・中・下:
改修後の工場の外観
■長い間、ノリタケカンパニーの陶磁器の生地・食器の生産活動を支えてきた本社工場が、工場自体の老朽化・移転等の時代の流れによって、生産拠点としての役目を終え、空き家のまま有効活用されていない状態が続いていた。そこで、食器の生産の全工程を行なっていた工場施設の佇まいをそのまま活かしながら、工場の一部を解体・再利用し、2004年に創業100周年を迎えるノリタケカンパニーの記念事業として、都市の中に市民に開放された緑あふれる公共の拠点《ノリタケの森》をつくりだした。さらに、この先の新たな100年というロングスパンを見据えながら、周辺地域との対話を行ない、企業文化を発信する都市のオアシスへと工場全体を再生した事例でもある。企業文化を伝える名古屋の施設空間の核として、また都市に住まう市民のための憩いの緑地の核として、大企業と地域社会との良きパートナーシップモデルとして、都市的再生を目指したものである。
設計概要
所在地=愛知県名古屋市西区則武新町3丁目1番36号
用途=ノリタケの森(クラフトセンター/ミュージアム/ショップ/記念館/レストラン/駐車場/広場などの複合施設)(以前はノリタケの工場)
構造=鉄筋コンクリート(RC)一部レンガ造の組積造(WB)
規模=
・ミュージアム=地上2階
・クラフトセンター=地上5階
・レストラン棟=地上2階
・記念館=地上3階
・ショップ=地上3階
敷地面積=44,960平米(ノリタケの森全体)
建築面積=6,574,418平米(ノリタケの森全体)
延床面積=14,083,111平米(ノリタケの森全体)
企画立案者=株式会社ノリタケカンパニーリミテッド
設計=大成建設(株)設計本部
施工=大成建設(株)名古屋支店
施工プロセス/PROCESS
工場の再生利用に関しては、できるだけ当時の工場の雰囲気を残しつつ、各施設の耐震・プログラムの状況に応じて必要な設備・構造の工事を行なう事を基本としている。
左:レンガの廃材を利用したランドスケープの工事の様子
右:レンガの廃材を粉砕して駐車場等の舗装の下地として利用
壁面に内側から新たな鉄筋コンクリートの壁面を打ち込むことによってレンガ造りの組積造を補強している。つまり、内側のRCの壁面による防水等の処理により、もともとモルタルの下地としてのレンガを外壁のデザインヴォキャブラリーとして利用することに成功している。そのため、新たに取り付けられた窓等の開口部は内側のRCの壁面に納められている。また、建物の四隅に鉄筋コンクリートでつくられたコアを配置することによって建物全体の耐震性を向上させている。
下左:レンガ壁の内側に新たな耐震壁を打ち込んでいる様子
上右:レンガ壁の開口部の改修の様子
上左:レンガ壁の内側の既存のRCの柱・梁にアンカーを打ち込み配筋をしている様子
施工中の写真すべて提供=大成建設(株)
現状/PRESENT
上左:陶磁器センターをリノベーションした森村・大倉記念館
上右:廃材を利用したランドスケープと緑地の広場。奥は、工場の記憶を残す煙突のモニュメント

■本来は産業廃棄物となうる工場内のレンガ等の廃材を利用し、ランドスケープをデザインしている。工場の基礎や煙突として使用されていた産業遺産を、擁壁や舗装材の下地として積極的に利用したランドスケープデザインによって、敷地の中から外にできるだけ産業廃棄物を出さないよう、環境に配慮しながら、レンガの持つ素材感や象徴性を活かした敷地全体の再生方法がとられている。
上左:《ノリタケの森》で遊ぶ子供たち
上右:ショップへ機能変更したもとの砥石工場の一階部分
下:ショップの様子
■名古屋の都心部で食器生産工場としての役割を終えて空白となっていた工場を、市民の憩いの場所として、その土地が培ってきた産業や風景を継承しつつ、現代の都市環境や環境問題と正面から向き合いながら再生・転用が行なわれている。その際、敷地内における工場としての佇まいを残しつつもこれまでとはまったく異なる、人々のためや都市の公共の緑地として生まれ変わっている。それは、大企業が自身の工場としての空間を転用・再生し都市や地域に開放しただけでなく、積極的に地域の人々とノリタケカンパニーがさまざまな企画やイヴェントを通して交流することにより、地域とともに一緒になって新たな文化を創造し《ノリタケの森》を育てていった事例であると言える。つまり、《ノリタケの森》における転用は長い時間軸のなかでこれからも継続されて発展していく可能性を持った事例であると言える。
それともうひとつ。リノベーションを行なう際に問題となる廃材等の環境問題を、転用・再生のデザインプロセスのなかでうまく解決している事例であり、環境問題を考慮したリノベーションであるともいえる。
このようにノリタケの森の事例は都市的なスケールと環境問題を配慮したリノベーションの事例としてさらなる広がりの可能性をもった、企業が取り組む大規模なリノベーション計画のプロトタイプと位置づけられるのである。
(伊藤良)
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