Renovation Archives [053]
●創業支援施設[小学校] 台東デザイナーズビレッジ
取材担当=齋藤悠太

概要/SUMMARY


リノベーション後外観。もとの校庭は民間が運営する駐車場となった
■台東区の地場産業であるファッション・雑貨産業の活力、競争力を高めるため、平成15年の統廃合によって使われなくなった小島小学校の1、2階部分を改修して、ファッション関連のデザイナーのための創業支援施設とした転用事例である。事業・運営計画としては、台東区産業部経営支援課とインキュベーションマネージャー(通称:村長)が核となり、入居者のニーズにあわせて最適な企業等を紹介できるコーディネート能力や新たなビジネスの展開をサポートしている。入居者はおもに靴、鞄、バッグ、ベルト、帽子、アクセサリー、ジュエリーにアパレル等を加えたファッション・雑貨産業を中心としたデザイナーである。入居期間は、3年以内(ただし、最長5年まで延長可)で、現在18組のデザイナーと早稲田大学映像コミュニケーション研究所、早稲田大学ヒューマンリソース研究所、東京藝術大学が入居中である。そして、早稲田大学・東京藝術大学との連携を図り、産学公交流事業を展開することで、地域住民との交流を深め、手作り教室や入居者の作品展示会などのイヴェント等を企画しながら、産業と地域を結ぶ核としての役割を担っている。
設計概要
所在地=東京都台東区小島2丁目9番10号(旧小島小学校校舎)
用途=創業支援施設(以前は小学校)
構造=鉄筋コンクリート構造
規模=3階建て(うち1、2階の一部を使用)
敷地面積=3,144平米
建築面積=4,524平米
延床面積=2,356平米
竣工年=2004年(既存:1928年)
企画=台東区
施設概要=
・賃貸事務所18室(面積約20〜40平米程度)
・共用施設としてショールーム、制作室、展示室、商談室、交流サロン、図書室、資材室、会議室、駐車場、コピー室、給湯室、トイレ等の付帯設備
・3階を東京藝術大学、2階の一部を早稲田大学の研究所が使用
施工プロセス/PROCESS
改修工事にあたっては、できるだけ学校の雰囲気を残しつつ、必要な設備の工事を行なうことを基本とした。
1.建築:賃貸事務所の間仕切り(壁)の設置、階段室区画の設置、破損の著しい部屋の改修等
2.電気設備:各室の電話回線・インターネット回線・電源の設置、受変電設備、幹線設備、火災報知設備等
3.機械設備:各室の空調設備、給湯室設置、洋式便器設置等
4. セキュリティ:校門はすべて閉め切って、出入口をひとつに統一し、オートロックと、管理人の駐在によって人の出入りを管理
5. オフィスについては、入居期間が、3年以内という条件のため、現状復帰が基本。壁の塗り替え、サッシの交換、棚の設置などがなされた
左上:改修前廊下/右上:改修前教室
左下:とくに損傷が激しかった図書館の床/右上:廊下天井解体
提供=台東区
現状/PRESENT

デザイナーズビレッジ正規デザイナーアトリエ
■2階の1室を借りている早稲田大学映像コミュニケーション研究所では、旧図書室をオフィスとして使っている。

早稲田大学の研究員として台東区の調査、研究を行なうとともに、当研究所内に事務所をかまえているDATARは、 建築設計、建築写真を専門領域として活動する個人によって構成され、都市を意識的な基底面としながら、それにまつわる生産・流通・消費過程をも視野にいれた企画制作、調査、デザインを行なっている。

■旧図書室改修計画 (設計・施工/DATAR)
「契約後の現状復帰および使用年数が3年という条件のもとで、必然的にやれることは限定されていた。
そこで、インテリア=被覆こそが原理である、ということに立ち返り、あたかも洋服を着るかのような気軽さでもって、室内を布で覆った。布は服飾の布地であり、現状復帰の条件をクリアするため、衣服が着脱可能であるように、強力両面テープで施行した。
天井、床、垂直面を積極的に被覆することで、一度すべてをおなじ「面」というカテゴリーに還元したのち、今度は布のドレープが与える視=触覚値をきっかけに、それら「面」が新たに関係=組織づけられ、結果として事後的に生ずるものが「空間=ヴォリューム」、すなわち本計画のインテリアとした。
本計画に新たに導入されたものは布、長尺塩ビシート、塗料──つまり表面を覆うもの、被覆するもの──のみである。」
(DATAR)

左上:旧図書館、改修前
左下:早稲田大学映像コミュニケーション研究所

小島周辺マッピングデータコンセプト
提供=DATAR
                    

小島周辺空家写真
施工プロセス以外、すべて撮影=山岸剛(DATAR)
コンパクトシティ、ダイアグラム 提供=DATAR
(左から、ショッピングエリアマップ、交通路線エリアマップ、商業・教育文化エリアマップ、それぞれのエリアマップを重ねたもの)
■浅草と上野の間に位置する台東区小島は通過交通が多く、製造業者や職人、問屋業者といった潜在的な価値があるが、それを活かしきれていなかった。そこで現代的な方法で地場産業をもりたてるために、小学校をデザイナーのアトリエとして転用した。デザイナーズビレッジは、アトリエとして機能するだけでなく、地域の製造業者や職人、問屋業者との密接な関わりをもって操業できるというメリットがある。
そのなかで、DATARは、その特性を効率的かつ実質的なエコノミーに還元、活用するため、台東界隈を「コンパクトシティ」という枠組みでの再解釈を試みている。具体的な計画として、小島周辺に数多く点在する空き家をデザイナー・職人などのアトリエや事務所として再利用することで、台東区によって管理・運営されているデザイナーズビレッジの機能を拡張する提案を行なっている。
このような計画案や土地の潜在的な特性によって、台東デザイナーズビレッジは、小学校の転用事例という点的なものから、面的な広がりをもったエリアコンバージョンとして発展する可能性をもった事例として挙げられるだろう。
(齋藤悠太)
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