Renovation Archives [036]
I
都市デザインシステム
●ホテル CLASKA
取材担当=大家健史

概要/SUMMARY


左:既存建物外観
右:リノベーション後外観
写真=(C) Mr. Satoshi

■JR目黒駅から西へ目黒通りを歩くと個性的なインテリアショップが数多く建ち並ぶ。ここは「インテリア・ストリート」と呼ばれ、若手のオーナーたちによるショップが集まっている。そんな目黒通りを2キロほど進んだところにクラスカがある。ここはもともと1969年にホテルニューメグロとして建設された。都市デザインシステムの梶原文生社長と広瀬郁氏が、家具プロデューサーである立川氏から、そのニューメグロが営業を停止するという情報を知ったところから計画がスタートした。同社がこの建物を一棟丸ごと借り受け、リノベーションを実施した。このプロジェクトでは広瀬氏がコンセプト設計から運営までの総合的なプロデュースを行なった。
広瀬氏の大学時代の専攻は建築。同潤会アパートの調査などを行なっていた。この経験が今回のリノベーション計画へのひとつの動機となっている。大学院修了後、外資系のコンサルティング会社を経て、都市デザインシステムに入社。前職の勤務先がフィラデルフィアやニューヨークだったこともあり、リノベーションされたホテルを見る機会が多かった。それ以来デザインという空間の付加価値を顧客に提供するホテルを手掛けたいと思うようになったという。リノベーション計画はオペレーションパートナー、デザインパートナーがそれぞれ役割を分担し、都市デザインシステムが総合プロデュースするかたちで進められた。現在はコンシーズという会社を新たに設立し、経営は同社が行なっている。

設計概要
所在地=東京都目黒区中央町1-3-18
用途=ホテル
構造=SRC造
規模=地下1階地上8階塔屋2階建て
敷地面積=787.37平米
建築面積=544.14平米
延床面積=3114.76平米
竣工年=2003年(既存:1969年)
企画=都市デザインシステム
経営運営=コンシーズ
運営=トランジット
設計=インテンショナリーズ、都市デザインシステム
施工=オーパスデザインスタジオ、コスモスモア
家具ディレクション=t.c.k.w.(立川裕大)
グラフィック=タイクーン・グラフィックス
インスタレーションアート=tomato

借り受けた当初の既存内観

パートナーの仕組み
施工プロセス/PROCESS

竣工当時のロビー(1969)。エレベーターが存在していたことがわかる
竣工当時のカフェラウンジ。左奥にエレベーターの開口が見える

■プログラムの再構築
もともとホテルニューメグロは1Fロビー・カフェラウンジ・レストラン、2Fレストラン、3F宴会場、4F神殿・写真室・会議室、5〜8Fビジネスホテル33室という使われ方をしていた。そこに新しいプログラムとして、1Fにトランジットによって運営されるカフェレストラン「The Lobby」、大阪から代官山に進出したヴィジュアル誌専門の洋書店Hacknetによるブックストア「essence」、ドッグトリミングサロン「DogMan」、2Fにアート・展示会・各種イベントの開催が可能なギャラリースペース、3Fにシェア空間を提供するワークプレイス、4〜5Fにデザインホテル9室、6〜8Fに長期滞在用のレジデンシャルホテル27室が入る。
ホテルニューメグロの竣工当時の写真には美しいホテルの空間が映っていたが、借り受けた建物は改修を繰り返し、原形をとどめていなかった。その写真には借り受けた当初はなかったエレベーターが映っていたため開口が存在することがわかり、床をはがして吹き抜けをつくった。プランニング等の問題で客室の水まわりは9室すべてリニューアルしている。

ふさがれていた開口部分の床をはがした状態

解体後の状態

プログラムのリノベーション
現況:2004年

エントランス(tomatoによるインスタレーションアート)

カフェレストラン

ブックストア。上記のプロセスを経て吹き抜けがつくられた

ドッグトリミングサロン
写真=(C) Mr. Satoshi Minagawa

2Fアートスペース
写真=(C) Mr. Satoshi Minagawa


3Fワークプレイス。複数のグループがシェアする空間

4Fホール。既存のタイルが活かされている。

デザインホテル。奥はもともと日本庭園だったところを解体し、防水設備を加えている

レジデンシャルホテル。使用者がライフスタイルに合わせて空間に手を加え長期滞在できる

屋上スペース。奥にコンシーズの事務所が設けられている。
写真=(C) Nami Katagiri
■人が交差し、くらす場所のあり方
あらゆる人が行き来するホテルのリノベーションとはどういうものだろうか。運営にたずさわるトランジット代表中村貞裕氏はホテルをリノベーションすると聞いて、まずイアン・シュレーガーとフィリップ・スタルク設計の「ハドソン」を思い描いたという。ニューヨークでは他にもレジデンスをホテルにコンバージョンした「ショーハム」など、古いビルが最新のデザインホテルに改装されることは珍しいことではない。ヨーロッパではロンドンにあるオフィスをホテルにコンバージョンした同じくフィリップ・スタルク設計の「サンダーソン」、少し違う例だとポルトガルの古城や修道院などの重要文化財をポウサダと呼ばれる国営ホテルに転用する政策のもと、エドゥアルド・ソウト・デ・モウラが女子修道院をコンバージョンした《ポウザーダ・サンタ・マリア・ド・ボウーロ》など、魅力的なホテルのリノベーション事例が多い。このクラスカはもともとホテルだったわけだが、プログラムの変更により新しい機能が付加されたという意味では、これらのコンバージョン事例と類似するといえよう。ホテルという様々な文化が混じり合う場所でどう暮らすか。これはクラスカのコンセプトであるが、うまく使われていない場所をリノベートするときにはこのようにもとのビルディングタイプの既成概念自体を疑い、その場所のあり方を考える必要があるのではないか。(大家健史)

Archives INDEX
HOME