Renovation Archives [035]
I
リブリッジ
●コミュニティ・ギャラリー[居酒屋] 《リブリッジ・エディット》
取材担当=大家健史

概要/SUMMARY


左:既存建物外観
右:リノベーション後外観

■NPOとコミュニティ・ギャラリー
2000年8月、仙台市青葉区春日町、定禅寺通りに面した敷地にせんだいメディアテークが完成した。竣工から4年の歳月が過ぎ、この周辺は家具屋などが増えて文化的なスポットとして変わりはじめている。そんなせんだいメディアテークのすぐ裏側にあるのが《リブリッジ・エディット》
だ。
《リブリッジ》は2003年10月に特定非営利活動法人に認証されたNPO法人。マーケッター、デザイナー、キューレーター、イベンター、建築家、写真家、看護士、OL、フリーター、など様々な職業の人々が集まり、日常を魅力的にしてくれる文化的活動やコミュニティビジネスなどを通じて心豊かに暮らせる「まちづくり」への取り組みを支援
・創生していくことを理想とし、活動を行なっている。活動の拠点、表現の場、多くの人とコミュニケーションする場所をつくりたいという想いから、法人格取得を後回しにして、まず場所を探すことから始めた。そして、良い場所がないなら既存の街に手を加えて自分たちにふさわしい場所をつくればいよいという考えのもと、居酒屋として使われていた3階建て築35年のビルを見つけ、その1階部分をリノベーションした。
リノベーション設計はNPOメンバーで建築家の菅波哲也氏が担当している。作家の個展を中心としたアート展示、演劇、講演会、期間限定カフェなどノンジャンル多彩なイベントを行なえるような場所として計画されている。

設計概要
所在地=宮城県仙台市青葉区春日町
用途=コミュニティ・ギャラリー(以前は居酒屋)
構造=鉄骨造
規模=地上3階
延床面積=約30平米
竣工年=2003年(既存:1969年)
企画=リブリッジ
設計=菅波哲也
施工=リブリッジメンバー

仙台のメインストリート、定禅寺通り。杜の都を代表するケヤキ並木がある

既存内観
施工プロセス/PROCESS

一階平面図、アクソメ。
天井高2.7メートル、約10坪の小さいスペースのなかで一番メインとなるのがギャラリースペース。また、スモールスペースと呼ばれている作家の待機スペースなどが設けられている。

拡大

■超低予算の計画だったため、半年以上の歳月をかけセルフビルドで工事が行なわれた。かかった費用は100万円未満。電気工事、給排水工事以外はすべてNPOのメンバーたちの手による。大勢の人を集めてワークショップのようなかたちでリノベーションが行なわれた。出来上がるまでの議論や工事の一つひとつの過程をwebサイトにアップしてリノベーションのノウハウを提供するような試みを行なっている。
ルーバーやメッシュシートなど透過度のある素材を使うことで、古い壁の上に新しい壁がレイヤーとして徐々に重ね合わされた空間になるように設計されている。

左:2003年3月30日。解体の様子
右:
2003年4月28日。天井の錆落とし
左:2003年5月2日。天井のペンキ塗り
右:
2003年5月5日。モルタル打設
左:2003年6月7日。下床完成祝い
右:2003年6月28日。ルーバーの白ペンキ塗り
左:2003年7月28日。ルーバー完成祝い
右:
2003年9月28日。外壁ペンキ塗り
現況:2004年

ルーバーの空間

ルーバーに白のパネルをはめる

白の空間

ルーバーに黒のパネルをはめる

黒の空間

ルーバーの空間はコミュニティスペースとして機能する

白の空間での展覧会の様子

演劇舞台として使われる黒の空間
■つなげる役割としてのリノベーション
半年以上の時間をかけ、NPOメンバーの手によってリノベーションが行なわれたことで地域とこのNPOとの間に深い関係性が生まれている。ここではリノベーションという行為そのものが、人と場所との間の触媒として機能していると考えられる。建築史家の五十嵐太郎氏はこのようなリノベーションの触媒作用についてこう説明する。 「リノベーションとは、カタリスト(触媒)なのではないか。完成された結果よりも、諸条件の制約のなかで、まず偶発的なイベントが発生するプロセスを楽しむこと。触媒が物質の化学反応を促進させるように、リノベーションは多くの人を巻き込み、共同体の物語を生成していく。かつての宗教建築のように、時間をかけて、人びとがプロジェクトに参加することを重視しているのだ。そう、一瞬のカタルシスではなく、継起するカタラシス(触媒作用)としてのアートなのだ」(★1)
リノベーションという行為はコミュニティを誘発するシステムを孕んでいる。この場所には古くからの商店街があり、春や秋には必ず祭りがある。新しく入ってくる人やものとこのまちに古くから暮らす人やものとをどうつなげていくか。それがこれからのNPOの課題となっている。地域の人々に話を聞き春日町をいろんな視点からレポートする「春日町見聞録」という企画を行なったり、宮城県美術館と共同で地域の写真を撮影するワークショップを開催するなどして、着実に様々な人や地域と「コミュニケーション」することができるギャラリーになっている。(大家健史)

★1ーー五十嵐太郎「カタリストとしてのリノベーションー交差する建築と美術」(『美術手帖』2003年8月号)
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