Renovation Archives [031]
神保哲夫(JIN建築設計事務所)
[改修前]設計=広瀬鎌二(広瀬鎌二建築設計事務所/現広瀬研究室)
●住宅のリノベーション 《上小沢邸》
取材担当=福田啓作

概要/SUMMARY

左:改修前写真/右:改修後写真 敷地は品川区の閑静な住宅街。計画立案は1958年。当時、住宅の新築を予定していた上小沢夫妻が、『婦人画報』誌に掲載された広瀬氏の作品を目にしたことがきっかけとなり、その設計を氏に依頼。予算等の条件に制約があるなか、夫人がピアノを教えていた関係から、ピアノ室と居住スペースを分けること、今後、車を庭に引き入れる予定なので入口の幅を広くすること、そして雨戸を入れ、不燃建築にすること、という最小限の注文に基づき1959年に竣工。
少ない収納や、文字通り最小限の骨格=サポートに、「ものはたくさん持たず、不必要なものはどんどん捨てていく」というライフスタイルで対応しつつ、JIN建築設計事務所の神保哲夫氏との出会いから、継続的な改修を開始。「本当に必要なものは何か」という問いを繰り返しながら、家具や設備等=インフィルを時代毎に更新しつつ、現在に至っている。
設計概要
所在地=東京都品川区
用途=住宅
構造=コンクリートブロック造・一部鉄筋コンクリート造
規模=地上1階
敷地面積=531平米
建築面積=55平米
延床面積=46平米
建築年月日=1959年8月、改修1974年〜現在
設計=(改修前)広瀬鎌二(広瀬鎌二建築設計事務所)/(改修後)神保哲夫(JIN建築設計事務所)

改修前平面図拡大
改修前南立面図/北立面図
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改修後南立面図
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施工プロセス/PROCESS
これまでの改修の概要

1974年  屋根にコールテン鋼を貼る(現場溶接)
1回目のトップライト部分屋根改修
75年  南テラス・玄関ポーチ踏込み改修/表札新設
76年  内部全面改修
旧家具(台所、タンス、吊り戸棚、カウンター)取り外し
床貼りかえ(天然スレート、モルタル刷毛引き)
旧スティール製枠、旧スティール製建具取り外し、新スティール製枠及び建具取り付け、ペアガラス採用
東西面レンガ壁取り外し、スティール枠ペアガラス(FIX)取り付け
洗面・浴室の木製建具取り外し、耐水シナ合板による作りかえ
西壁コーナーカウンター、食卓テーブル設置
ユニット家具:インターリュプケ/白
台所ユニット:ポーゲンポール/黒
冷暖房:ヒートポンプ式チラー冷暖房(床暖房を含む)
給排水、ガス、電気工事
77年  ステンレス製風呂桶設置
79年  車庫、門扉の新設
89年  扉冷暖房機器第1次更新
92年  台所ユニットの取りかえ:ポーゲンポール/白
95年  2回目のトップライト部分屋根改修
97年  コールテン鋼塗りかえ/勝手戸打ち倒し窓取り外し、FIX窓取り付け
2001年  外塀の取り外し/新設
2004年  玄関スティチール戸取り外し、テンパーガラス戸取り付け/冷暖房機器第2次更新/家屋に接続する電線・配管の完全地中化(離れの新築工事と同時に施行)
上から
トップライト部分屋根改修詳細図(1974)
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南側サッシ廻り詳細図
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トップライト部分屋根改修詳細図(1995)
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カウンター詳細図
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現状/PRESENT

左:室内より庭を眺める。手前に写るのが1976年につくられた食卓テーブル
右:2004年に取り替えられた玄関のガラス戸

左:南面バルコニーおよびカーポート
右:北面窓(手前)および勝手口(奥)。古いコンクリートブロックと新しいガラス面が共存する
■コメント
上小沢邸には空間の強度がある。例えば、「外塀の上にのった鉄骨の隙間を何cmにするか、神保氏と随分話し合った」という上小沢氏の話からその片鱗が伺えるように、空間に存在するもの全てが、吟味・厳選された上で、そこに存在している。この空間の強度は一体どこから生まれるものなのか。上小沢邸は、オフィスビルから住居、あるいは工場からオフィスといった物件に見られるような「転用」された物件ではない。最小限の骨格=サポートを有した住宅として生まれ、家具や設備等=インフィルが時代毎に更新されながら、現在も住宅として住まわれ続けている。増築でも減築でもなく、あくまでも既存の骨格を前提とし、それを読み込み、読み替え、更新し続けること=リノベーションし続けること。小さな工夫や改修の積み重ねが空間に強度を生み、「住む」という行為は更新され続ける。上小沢邸は、リノベーションされ続けることと「住む」という行為が分かち難く結びつき、空間の強度が補強され続ける稀有な好例と言えるだろう。
(福田啓作)
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