Renovation Archives [030]
市原出+粂田起男+杉下哲+苅谷邦彦+三沢守+冨樫覚
●デザイン工房[体育館] 《ORANGE》
取材担当=村井一

概要/SUMMARY


左:既存建物内観/右上:リノベーション後内観/右下:同外観
右2点=© エスエス 島尾望
大学施設の改修である。東京工芸大学では、2003年度に新設されたデザイン学科ヒューマンプロダクトコースのために、前年度に閉学した同大学女子短期大学部の体育館をデザイン工房へと改修した。
キャンパス施設の企画を行なう同大学厚木キャンパス整備委員会では、当初このデザイン工房を新築する方向で検討しており、その際必要でなくなった体育館をどう利用するかという問題も抱えていた。また、デザイン工房のコンセプト企画を行なう同大学デザイン学科からは「ヒューマンプロダクトコースの施設には制作のための大きな空間が必要」、「座学の場、制作の場、発表の場に立体的な関係が欲しい」との意見が出ていた。
そこで、これらの施設計画と教育プログラムの要求を一体的に解決すべく同大学教授の市原出氏が提案したのが、既存体育館の内部に新たに工房をつくる改修計画である。「ラフな屋根があるところに別の建物をつくろう」という着想であったと市原氏はこの計画を振り返っている。
設計概要
所在地=神奈川県厚木市
構造=鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造
規模=地上2階
敷地面積=17553.28平米(厚木キャンパスの敷地面積)
建築面積=1337.9平米
延床面積=1987.22平米
竣工年=2004年4月(既存体育館:1987年11月)
コンセプト企画:東京工芸大学芸術学部デザイン学科(粂田起男、杉下哲)
基本設計、総合監修:市原出+東京工芸大学建築意匠研究室(市原出)
設計管理:株式会社山下設計(苅谷邦彦、三沢守、富樫覚)
施工:鹿島建設株式会社

基本設計段階の模型
施工プロセス/PROCESS
既存躯体に負担をかけないように新規躯体をつくった。1階は鉄筋コンクリート造で、これは施設内で発生する木・金工作業の騒音が近隣の住宅地に漏れないようにするためである。また、既存躯体のサッシを二重にすることで遮音性を高めている。2階は鉄骨造となっている。作業室からの排気設備が多いため、既存躯体と新設躯体の隙間の空間はダクトスペースとして有効に利用している。
工事は体育館入口からすべての資材と重機を運び込むかたちで行なわれ、空き瓶の中に船の模型を作るようであることから「ボトルシップ工法」と名付けられた。なお、体育館も工房も「学校」にあたるため、法規上の用途変更にはならない。
1階平面図(リノベーション後)
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2階平面図(リノベーション後)
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左上:PC杭打設工事
右上:2階鉄骨工事
左下:既存躯体と新設躯体の隙間を利用した配管スペ
ース
右下:
断面詳細図
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現状:2004年/PRESENT
左上:課題のプレゼンテーション風景
左下:学生の作業風景
右下:アリーナを中心とした空間構成
■現在、コース開設2年目にあたるが、施設を利用する学生からは好評だという。課題のプレゼンテーション時にはアリーナを中心に工房全体が一体となって講評できるような空間となる。コンセプト企画を提示したデザイン学科側も「予想していたイメージと違わない」とのことだ。体育館からデザイン工房へ。一見意外とも思える転用であるが、体育館の持つ空間スケールがデザイン工房に求められた空間構成を許容できた点が成功の鍵であった。大学の人員やカリキュラムの大きな変化が求められる昨今において、《ORANGE》はその変化に対応し、空間のスケールを読み替え、建物に新たな命を吹き込んだ好例といえる。
(村井一)
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