Renovation Archives [024]
I阿部仁史
●オルタナティヴ・スペース/アトリエ[倉庫] 《the House of a/》
取材担当=大家健史

概要/SUMMARY


左:既存建物内観
右:リノベーション後内観

まちに新しい人の流れをつくりだす
宮城県仙台市、仙台駅から東に4キロほど離れた若林区卸町は北海道・東北地区最大の倉庫街である。2002年、この倉庫群を対象に東北大学都市デザイン学講座が在庫占有率調査を行なったところ、時期によっては全倉庫の半分近くの空間が使われていないという状況だった。そうした現状のもと、同年、空き倉庫を東北大学大学院工学研究科都市建築学専攻で建築家の阿部仁史氏が自身のオルタナティブ・スペースにリノベートしたのが《the House of a/》だ。
もともとこの地域は第一種特別業務地区に指定されており、道路貨物運送業、貨物運送取扱業、倉庫業、卸売業以外の業種が事務所を持つことは禁止されていた。しかし、そのような空きスペースをうまく利用して、まちを活性化させたいという想いから阿部氏が卸町の協同組合「仙台卸商センター」と協議を重ね、アトリエをつくることが実現した。

設計概要
所在地=宮城県仙台市若林区卸町
用途=オルタナティヴ・スペース(アトリエ含む)
構造=鉄骨造
規模=地上2階
敷地面積=4966.32平米
延床面積=296.55平米
竣工年=2002年(既存:1970年代)
設計=阿部仁史アトリエ

仙台卸町の倉庫群

リノベーション前外観
施工プロセス/PROCESS
模型写真

倉庫の大空間のなかにメザニン(中2階)をつくり、その下にトイレやキッチンなどの設備を入れたシンプルな構成である。防寒のために床に断熱材を入れてコンクリートを打っている。エントランスからギャラリーを抜けて中に入っていくとラウンジがあり、コピー機や各スタッフのポスト、雑誌コーナーなどが配置され、自然に人が滞ってコミュニケーションが生まれるようにプランニングされている。設計室はキャンプサイトとセントラルパークというエリアに大きく分かれている。キャンプサイトでは各設計チームが自由に作業スペースを展開し、セントラルパークは通常は用途を固定せず、自由に使われていて、プロジェクトが立ち上がったときにはそのプロジェクトチームのスペースが仮設的に展開される。セントラルパークの上部には電動ウィンチを取り付け、巨大な荷物の運搬にも対応可能である。階段を上がったメザニン・エリアにはブレインストーミングをするためのスペースと阿部氏のワークスペースがある。中央には巨大な映像スクリーンが吊るされている。

1階平面図拡大
2階平面図拡大
左:エントランス・ギャラリーからミーティングルーム方向を見る。サッカー選手がプリントされた壁紙が貼られている
右:
ミーティングルームからエントランス・ギャラリー方向を見る
オープニング・パーティの様子(2002年11月)
現状:2004年/PRESENT

アトリエで定期的に行なわれているハウス・レクチャの様子。奥のキャンプサイトでは所員が仕事をしている

2003年12月27日に行なわれたハウス・レクチャの様子

2004年6月19〜27日に空き倉庫を使ったアートイベント「卸町はっぴい・はっぱ・プロジェクト」が開催された

同プロジェクトの関連イヴェントとして6月25日に開催された、卸町の空き倉庫(倉庫きよみず)での「ハウスレクチャ/リノベーションスタディーズ コラボレーション」の様子
■コメント
阿部氏のアトリエでは地域や建築の「再生」について考えていく「ハウス・レクチャ・シリーズ」というトークライブを定期的に開催し、今まで市民の出入りがほとんどなかった倉庫街に毎回多くの参加者が足を運んでいる。一人の建築家がこの卸町に入り込んだことをきっかけとして、まちの状況が確実に変わり始めている。
2003年12月に開催された仙台市議会において、仙台市特別用途地区建築条例の一部改正案が提出され、第一種特別業務地区だった仙台卸商センターの区域約52万平米を第七種特別業務地区とする用途地区の指定変更が決議、同年12月17日に公布・施行された。 このことによって
床面積500平米以内の一般の事務所または店鋪、飲食店、集会場、客席面積が200平米未満の劇場、映画館などの立地ができるようになり、現在、既存倉庫・店鋪の活用をはじめとする様々なまちづくりプロジェクトが行なわれている。まず、2004年6月に地元でコンサート・演劇・ダンスなどのプロデュースを手がける吉川由美氏により、空き倉庫を活用したアートイベント「卸町はっぴい・はっぱ・プロジェクト」が開催された。また、同年8月1日には卸町会館地下に音楽練習場「MOX」(モックス:ミュージックボックス イン 卸町)がオープン。さらに、新しい卸町の総合案内所として情報提供を行なうためのインフォメーションカウンター、まちづくりの基本データとして活用するため各施設の情報を一元的に管理できるリレーショナルデータベースをつくるVOT(バーチャル卸町)プロジェクト団地内の主要な通りに名称をつけ、標識、案内板などを設置する卸商団地内サイン計画などのプロジェクトが進行している。
箱だけのリノベーションではなく、そこに付随するアクティビティや様々な活動をどう誘発していくか。それは定住人口の減少や高齢化、経済状況の変化などによる問題を抱える全国の地方都市に共通の課題といえる。地域の人々をどんどん巻き込みながらまちを活性化させているこの実践はまちをつくっていく主体が市民であることを再認識させてくれる。
(大家健史)

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