Renovation Archives [007]
I
早稲田大学古谷誠章研究室[古谷誠章]
●博物館[図書館] 早稲田大学會津八一記念博物館

概要/SUMMARY


リノベーション前外観

リノベーション後外観

1925年(大正14)に建てられた今井兼次設計による早稲田大学2号館(図書館)を博物館に改修した。改修設計は同大理工学部建築学科教授の古谷誠章氏。
この建物は1990年に学術情報センターが新設され、図書館機能が移転してからは催しのときにしか使われていなかった。築後70年以上経過したこの建築を曾津八一が私的に蒐集した東洋美術のコレクションをはじめ、アイヌ民族衣装や名器など多種多様な展示品を公開するための博物館として再生させるプロジェクトである。
ものを陳列するためだけの展示空間とせず、さまざまなな展示品とともにある時間を過ごすための「ものを読むための図書館」と呼べる博物館として再生された。新たな機能をもった博物館として蘇らせるために、床を全面改修し、配線システムを組み込んでいる。
また、2階の常設展示室にはオリジナルの展示ケースがグリッド状に配置されている。展示ケースの多くは視線の高さを超えないようにして、展示室をひとまとまりの大きな空間として感じられるように配慮されている。

設計概要
主要用途=博物館
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階/地上7階/塔屋1階
敷地面積=73659.56平米
建築面積=1510.61平米
延床面積=6885.73平米
竣工=1998年5月(既存:1925年)
所在地=東京都新宿区
設計=古谷誠章/早稲田大学古谷誠章研究室(既存:今井兼次)
構造設計=早稲田大学田中彌壽雄研究室
設備設計=早稲田大学総合企画部
施工 改修=西松建設 展示=トータルメディア開発研究所

常設展示室
展示ケースがグリッド状に配置されている

プロセス/PROCESS

外観にはほとんど手を加えていない。多角形をなしたマンサード風の屋根。唯一、入口をクリーニングして周りが白かったものを黒く塗り、アルミとステンレスでできた扉を入れた


扉には早稲田大学曾津八一記念博物館/AIZU MUSEUM,WASEDA UNIVERSITYと日英表記され、これが館名板となっている

基本的には復元的修復である。この改修は、配線システムを組み込んだ床の全面改修とオリジナルの展示ケースの設計に集中していると言っていい。
床には高さ29mmのシステムフロアが新設された。建具はもともとあったものをシステムフロア分だけカットして使っている。将来の電子博物館化構想のため、展示ケースにあらゆる配線を増設可能にした。 展示ケースにはアルミハニカムが入った展示台面からのアッパー照明を組み込み、必要に応じて調光できるようにしている。
ケースのなかには補助照明として曲げ加工を施したグラスファイバー照明を取り付けている。台そのものは固定されているが、展示替えのとき簡単に取り替えられるようにガラスカバーがスライドする。
また、ケースには冊子を入れるスリットやスツールが組み込まれている。
6本の円柱がある1階のホールは、装飾が施された床や円柱それ自体を展示物としている。かつて円柱の柱頭にあった間接照明が復元された。
2階の常設展示室では壁の曲面の優美さを損なわないために、ヴォールト空間の原型をそのまま保存した。当初、東洋美術品、考古学の発掘品、大学に寄贈される多くの日本近代絵画がメインの展示物だったため、3つのセクションが必要となり、ヴォ−ルト状の空間を3等分するために隔壁で分けるという計画だった。しかし、空間性を維持することを最優先に考え、壁などは一切立てずに大空間の展示スペースとなるようにした。 窓は遮光しているが、光を採り入れて元々の空間の雰囲気を復元できるように、パネルではなく遮光カーテンにしている。


1階平面図

2階平面図

断面図01

断面図02

玄関ホール
6本の美しい円柱が特徴的な空間

左官・中島武一の作業風景
かつて、左官・中島武一がこの柱の最後の仕上げの日に妻と子供を呼び寄せて仕事を眺めさせ、丹念にコテで仕上げを行なって満足そうに帰っていったという逸話がある。それに大変感激した今井兼次はその後何回もそのことを講議で話した

円柱
昔は点灯されていたという柱頭の間接照明を復活させた

常設展示室
内部は漆喰による円形ヴォールト天井。両妻面に一対の背の高い窓があり、正面には同様に五連の窓が並ぶ。上の照明は既設の大きなペンダント蛍光灯を新たにデザインしたものに交換している

常設展示室
《羅馬使節》 をはじめとする背の高い絵画や掛け軸、彩り鮮やかなアイヌの衣裳などの展示は、空間を断ち切らないよう中央列に置かれた両面ガラス・ケースを用いて行なわれる

展示ケースアクソメ


展示ケース
スツールが収納され、スリットには冊子が入っている
■コメント
秀逸な建築は正しい使い方を誘導してやるだけで輝きを取り戻す。 建築家は元の建築の意味を読み解き、そのオーセンティシティが何かを判断しなければならない。この建築の場合はもともと豊かな空間があったにもかかわらず、間違った使い方によってその魅力が失なわれていた。それらを復元してやることによってこの建築は蘇ったわけである。復元しようとしているのは何も物理的なものだけではない。この建築ではもともとそこで行なわれていた本を読むというアクティヴィティを過去の残像として復元している。 今回の改修で新たに付加しているものは最小限だが、その効果は最大限に表われている。 《曾津八一記念博物館》は過去-現在-未来という時間の流れと、その関係性を強く感じさせてくれる巧みなリノベーションである。(大家健史)

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