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FORUM No.04(2006.12.7)

遠藤和義
工務店ビジネスとホームセンター型建材流通の可能性

LECTURE01

大工・工務店のビジネスモデル、利益の源泉とは

遠藤──お話をする前に、私のプロフィールが今日のテーマに影響しているので、そこから話を始めたいと思います。私は昭和35年、横浜に生まれました。父親は工務店を経営しており、昭和30年代の前半に福島から出てきました。当時、地方では長男以外は腕に職をつけて都会へ出ていくのが当たり前だったようです。父親は次男で、地元で大工仕事を覚えた後、横浜に出てきました。そういう家に私は生まれたわけです。私が物心ついた頃、家族は風呂のない2Kの家に住んでいましたが、当時住み込みの大工さんが常時2〜3人いました。私は、工務店の仕事や経営、職人が再生産されるサイクルをずっと見てきたことになります。私は一人息子でしたから、当然跡を継ぐことが期待されていました。子供用の大工セットを買ってもらって、親としては英才教育のつもりだったのかもしれません。工作なども得意だったのですが、大学を卒業する時期に、技能を身につけていなくては町場の工務店を継ぐのは無理だと思いました。またモラトリアムもあって大学院に行って勉強するほうに切り替えました。大学院の4年間は木造住宅の生産システムについて研究し、その後京都大学の助手になって、そこではもうお亡くなりになりましたけれども建築生産、建築経済の大家である古川修先生の研究室で勉強しました。当時、木造住宅の研究者はたくさんいたので、ビルコンやゼネコンの研究をしようと思い、そちらに研究をシフトしました。その後、1993年に工学院大学に移り、現在に至るわけです。父親は70歳すぎまで工務店を経営していたのですが、2005年に廃業しました。父親が体調を崩した最後の半年ぐらいは実際の経営に直接タッチしました。そして工務店の実際のビジネスについて、実は何もわかっていなかったと思いました。しばしば工務店の後継者を目指す学生が私の研究室に学びに来ます。現在、彼らと一緒に工務店経営について調査、研究を進めているところです。

遠藤和義氏


大工・工務店のビジネスモデル 

今日お話するテーマは3つあります。まず大工・工務店はどういうビジネスなのか、どこで儲けているのかということです。2番目に、大工・工務店のオリジナルな形である棟梁型、つまり設計と施工ができて、1棟をまとめ上げるマネジメント能力を持ち、地域社会からも尊敬される大工が今後どうなるのかということを考えること。3番目に大工・工務店を代替するひとつの仕組みとしてホームセンターを拠点に考えられないだろうか、ということです。
まず、大工・工務店のビジネスモデルについてお話しします。大工・工務店はお客さんと総額を決めて請負契約を結んでいるわけです。そしてその契約書に添付する客先提示内訳書があって、「うちは3パーセントの諸経費しかとっていません」とか、「出精値引きで本当は赤字です」というようなことがそこから読み取れるのです。ここからディープな世界に入っていきますけれども、われわれは契約した後に大工・工務店が作成する本当の予算を文書にした実行予算書、それから外部に一体いくら払ったのかという工事台帳、さらに下請業者、外注先が大工・工務店に出した見積書などの文書を20以上のプロジェクトについて集めました[fig.1-1]。調査対象の大工・工務店と相当な信頼関係がないとこういうデータは出てきません。まずこういう資料を揃えてとってある工務店がまずそうはありません。ある工事をやっていくら儲かっているのか年度の会計を閉めないとわからない工務店も少なくありません。調査対象は首都圏、東北、四国の3つの工務店です。A社は典型的な戸建住宅専門の工務店、B社はリフォーム・増改築を主にやっている工務店、C社は展示場を持つような規模の工務店です。

fig.1[拡大]

請負金額から諸経費をどのぐらいとっているのか。言い換えると、工務店はどれだけ儲けているのかをまずみます[fig.1-2]。それは一般管理費等配賦額と現場経費を合わせた諸経費ではかることになります。前者には本社経費、社長・役員の給料、後者は現場監督の給料です。直雇や社員大工の分は直接工事費の方に含まれます。この諸経費を客先提示内訳書、実行予算書、工事台帳で順次検証していきます。客先提示内訳書での諸経費は、A社の場合9.4パーセント、B社の場合7.4パーセント、C社の場合1.8パーセントで、平均7パーセントぐらいとなっています[fig.1-3]。それが実行予算になると、A社が22パーセントぐらい、B社はちょっとデータがないのですが、C社9パーセントぐらいで、平均としては17パーセントです。工事台帳、つまり実際に下請けに払って手元に残った諸経費という考え方でいきますと、22.5パーセント、24.5パーセント、13.5パーセント、平均で22.4パーセントとなります。お客さんには諸経費も確保できないくらい勉強していますと言っているわけですが、そんなことはあるわけがなくて、結局20数パーセントの諸経費を確保していることになります。なぜこの20数パーセントのほうを客にそのまま見せないのかというと、他社と競合した場合、諸経費率が高ければそれは値引きの対象になるからです。一般に諸経費率が目立つほど高くなければ、客は工事費総額にしか興味を持ちません。客ももう少しは儲かっているだろうとは思いつつも、そこはあまり追求せずに契約するわけです。

上:fig.2 下:fig.3

ただ、資料をいただいた物件は、ある程度経営のよいものが集まっていると思います。3社のなかでC社は諸経費率が低いですが、C社は住宅展示場に出展していて他社競合の度合いが強いわけです。それで値引きをしないといけないし、諸経費もあまり大きくできないという事情があります。本来、町場の小規模な工務店の経営を考えると、やはり25パーセントぐらい諸経費を取らないと成立しません。これはB社の実態を図にしたものです。受注高が年間1億5000万ぐらいで、諸経費をやはり25パーセント程度とっています。そうでないと、社長の1000万円、社員2人の各500万の給与が出てきません。諸経費が25パーセントを大きく割り込むような工事が続けば、経営している意味がありません[fig.1-4]。

fig.4[拡大]

諸経費と提示内訳書の関係

そうした諸経費を確保するために、「直接工事」を構成する各費目について、実行予算書作成時点で客先提示内訳書から金額を減らします。どのくらい減らしているかというと、A社では各費目で軒並み十数パーセント減となります[fig.1-5]。工務店は必要な諸経費確保するため、多分自覚的に、客先提示内訳書ではそれを直接工事の費目に潜り込ませていると考えられます。目立つのは仮設工事で、いきなり実行予算で6割も減らしています。仮設工事の中心は足場になりますが、お客さんには「リース会社から120日借ります、かけばらしは鳶にやらせます。だからこれだけかかります」と説明するのですが、工務店は足場の一組分くらいは持っていて、かけばらしは直傭大工にやらせるのです。だから実際は費用としてほとんど発生しません。最終的に仮設がマイナス70パーセント、基礎はマイナス30パーセント、材料、木材がマイナス10パーセント、木材は額が大きいですから実際の減額は大きい。それから、設備関係がマイナス23パーセント。要するにこういうところから工務店は諸経費を捻出しているのです。直傭大工の労務費はあまり減らしていません。工務店の財産は直傭の大工です。だからその給料になる部分は減らすことはしないし、大工を取り付けや調整など多能工的に使って、広い範囲の工種で活用します。一方、部品や材の比率が高い工種では設計単価、カタログ単価を客には見せておいて、実際はいわゆる半値8掛け2割引で買って、そこからも諸経費の源としています。

fig.5[拡大]

次にB社の450万円のリフォームについてみます。客先提示内訳書では、設計を外注とし、その費用を見積もっていますが、実際は二級建築士を持つ社員にやらせています[fig.1-6]。仮設や解体はやはり直傭の大工がやって実際の費用は発生していません。木工事は材料と労務にうまく分解ができていないのですけれど、やはり大工が多能工として他の工種までカバーしているので、労務の増によって木工事の実際の支払額は増えています。抱える大工の仕事を増やす、仕事を切らさないというのが工務店経営で重要なポイントなのです。
C社のこの例では、やはり設計は社員にやらせているので実際のコストは発生していません。最終的には300万ぐらいの諸経費を確保しています[fig.1-7]。

上:fig.6[拡大] 下:fig.7[拡大]

こういう事例の分析から、大工・工務店の原価管理の方針が見えてきます。まず実行予算段階で大工・工務店が必要とする諸経費をガバっと抜いて、その残りを直接工事に含まれる各工種に割り振っていきます。それが可能なのは、大工を直に抱えているからです。給与は日給・月給で払いますが、その融通性によって、仕事の山をならします。紹介した3つの工務店は基本的にプレカットはやっておらず、すべて手刻みでやっています。特にそういう工務店を選んだわけではないのですが。大工は下小屋(作業小屋)で月の半分位は刻みをやっていて、状況に合わせて現場に出ます。こういう融通性が工務店経営のポイントだと思います。ただ仕事の量が減ってくると、融通も何もなくて、仕事がないのに大工を食わせなければならないリスクも抱えます。
工務店はそういうことを全部あらかじめ知っていて客に見せる内訳書を作っているとすれば、請負金額は完全なフィクションとなります。世間で公共工事や民間工事なども含めて建築工事費はいい加減だ、不透明だと言われますが、その一端はこの分析でもわかります。ちなみに大手住宅メーカーの有価証券報告書から生産システムやお金の流れがどのようになっているか分析したことがあります。どこから、どんな単価で材料を買っているか等、有価証券報告書からある程度のことはわかります。その結果を大雑把に言うと、大手住宅メーカーのビジネスは、材料、部材、部品をそのバーゲニングパワーで安く買っていることにつきます。ゼネコンがスポットで買う鉄骨の価格と、プレハブメーカーが年間契約で鉄骨を買う値段は相当に違います。彼らはそこから利益を生み出して、高い販売管理費を埋めています。近年、こうした大手の住宅メーカーは、現場施工を担当する工務店の現場調達材を減らして、本社で集中購買したものを支給する形態に切り替える動きがあります。競争が激しくなるなかでそこからも利益をつみ取ろうとしているわけです。

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