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FORUM No.03(2006.10.12)

吉池基泰
住生活エージェント型ビジネスの役割と展開

LECTURE01

住宅市場の現状と今後

司会──本日は三菱総合研究所の吉池基泰さんをゲストにお迎えしました。吉池先生は三菱総合研究所では産業経済部、住環境事業部を経て、現在は産業市場戦略研究本部ヒューマンリソース戦略グループの主任研究員の職に就かれています。本日は「住生活エージェント型ビジネスの役割と展開」と題し、消費者側の立場に立った商品のサービスをコーディネートするというエージェント・ビジネスについてお話していただきます。

吉池──「住生活エージェントガイドライン」の話をする前に、少し住宅産業の全体像を俯瞰して、住生活エージェントが業界において果たしている役割について話したいと思います。
住宅産業の市場規模は約18〜19兆円で、依然として市場規模としては大きいです。市場規模は右肩下がりとなっていますが、これまで景気対策として住宅産業への税制優遇措置や金利措置が頻繁に行なわれてきました。
もう少し内容を見ると、国土交通省が試算した数字では、建設工事に関する市場とその経済的波及効果を含めると市場全体では36.5兆円(これは建材設備メーカーの市場規模も含む)になります。さらに住居関連支出(設備機器や畳代などの費用、冷蔵庫やタンスなどの室内装備品、家庭用耐久財の費用、家賃、高熱費、水道代)を含めると、先ほどの市場規模に加えて数十兆円が上乗せされるので実は73兆円もあり、住宅産業が日本経済の根幹を成す産業であることが分かります。
97年4月に消費税が3%から5%にアップしましたが、その直前には急激な駆け込み需要があり、新築住宅は160万戸を超えました。ところが消費税がアップされた後、市場が急激にシュリンクし、最近は120万戸前後という状況です。最近住宅産業の状況は若干景気がよくなっていますが、今後の住宅市場、新築の市場は再度の消費税アップにより、97年頃と同じような現象が起きることが予想されます。つまり駆け込み需要は期待できるのですが、その後市場がまた急激に冷え込む可能性があります。したがって消費税の動向は、今後の新築需要の動向に大きな影響を与える要因になると思います。
次に住宅産業の担い手の特徴と課題についてですが、ハウスメーカーが代表的なプレイヤーで、最先端で住宅産業をリードしています。消費税アップの駆け込み需要で新築は160万戸を超えましたが、ハウスメーカーはそれに合わせた設備投資を行なってきたので、120万戸程度の需要しかない現在では工場設備がかなり余っているという状況です。また最近、新築市場がどんどんシュリンクしているので、ひとつの傾向としては自社で工場を持たずに、協力工場に委託生産するという動きが出ています。建材設備メーカーの状況も同じで、ハウスメーカーとは違って中国や東南アジアに工場を求めるという動きが出てきています。生産ラインの維持も難しくなっている一方で、従来の工業化を前提とした生産手法がハウスメーカーの得意分野でしたが、首都圏ではプレカット率が9割ぐらいになっているように、工務店の工業化も進み、工場生産におけるコスト競争力が最近では損なわれてきているのが現状です。
二番目の住宅産業の担い手としては地域のビッグビルダー、パワービルダーがいるのですが、パワービルダーが急激に受注を増やしており、伸び率を見ると、複数のパワービルダーが何十%もの伸び率を示しています。パワービルダーがこのように伸びている理由は、ともかくリーズナブルに住宅を供給する、かつ郊外の戸建住宅の需要、団塊ジュニアを中心とするターゲットに対する需要にフィットしている点だと言われます。コストを下げる要因としては、仕様を標準化したり、量を建てるため資材調達でスケールメリットを得られる点です。それからパワービルダーの場合、工程管理もきわめて効率的で、建築コストをとにかく抑えるのが特徴です。
今後の市場の動向とパワービルダーの関係ですが、人口ピラミッドを見ると、現在、主要ターゲットである第二次ベビーブーマーはかなり層が厚いのですが、これから急激に主要ターゲット人口はシュリンクしていくので、事業の再編を余儀なくされる可能性はあるでしょう。パワービルダーの中には建売分譲だけでは厳しいので、注文住宅を増やそうとしているところもあります。
それから3番目は地場の中小工務店で、きわめて零細の企業が多い。木造軸組の戸建て住宅供給者の供給戸数別を見ると、年間1〜4戸の工務店が2001年で約20パーセントを占めています。しかしそれ以前の3年間の推移を見ても小規模な零細の工務店が減っており、この傾向は続いていて、かなり淘汰されていくと思います。しかし数字上は戸建住宅供給におけるシェアはまだまだ高いので、工務店との付き合いは今後も続くと思います。工務店でも注文住宅で仕様をできる限り標準化しようとしたり、実行予算管理をきちんとするところも出てきているように、経営改善を進めているところや顧客ニーズに高度に対応しているところは生き残り、そうではないところは淘汰されている状況です。
さらに厳しいのは、地縁・血縁を生かした口コミ的営業手法が通じにくくなっていることです。つまり大手ハウスメーカーと競合するケースが増えている、という状況です。それから注文住宅系にこだわっている工務店の多くは厳しいでしょう。ユーザーの設計変更が多いので工事の合理化が難しく、資材もコストダウンしづらく、全体のコストを下げられないため、価格競争力的には厳しい状況になっています。こういう注文住宅系の工務店の一部が倒産しているのではないでしょうか。
もうひとつ全般的特徴ですが、大手企業の市場占有率は低いのが現状で、上位20社の市場占有率は約3割です。逆に言えば、住宅産業は地場産業としての側面がまだまだ根強い業界だということです。しかも大手のシェアには大東建託のようなアパート系企業も入っており、プレハブメーカーのシェアは2割をなかなか超えられない状況です。その背景には、工場生産だけの勝負であれば他の製造業と同じように合理化を進めることができるのでコスト面ではプレハブメーカーが強いことは想像されますが、現場施工や現場での資材物流の部分でなかなか合理化できない部分が残っています。
さらに土地の問題があります。工務店の中には地元の不動産会社とネットワークが強く土地情報に詳しいところもあり、そういったところは、土地を求める消費者に対して営業面では強いです。こういう意味で地場産業としての側面が強いのです。
また住宅産業は、住宅政策の影響を非常に強く受ける産業です。従来は量の追求の時代で、住宅産業は公庫、公営・公団住宅という政策に支えられ成長してきました。ただ今年、今後の政策の方向性として住生活基本法とそれに基づく住生活基本計画の全国計画が閣議決定され、量から質への転換が進んでいます。住生活基本計画は良質な住宅ストックをどう形成維持していくかということと、姉歯問題に代表されるように、住宅の安全性をどのように確保していくかということが大きなポイントになっています。それから政府のセーフティネットをどう整備していくかということ、このあたりが中心的な論点になると思います。ただ住宅ストック政策を進めることで、例えば賃貸新基準適合率、住宅性能表示、既存住宅の流通性などが指標化されてきたので、今後中古住宅の流通についても政策面ではバックアップが進むと思います。

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